うつ病から立ち直るきっかけとは?回復のポイントから回復過程について解説
うつ病は、生涯のうち100人に約6人が経験しているとされるほどめずらしい病気ではありません。原因はまだはっきり分かっていませんが、ストレスが引き金となって脳の働きになんらかの問題が生じ、うつ病が発症するとされています。うつ病は適切な治療を受けることで治る病気ですが、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら少しずつ回復していくため、時間がかかることが一般的です。今回の記事ではうつ病はどのように回復するのか、立ち直るきっかけや回復のポイントについて解説します。
うつ病になったら…まずは休養に専念することが大切!
うつ病は、気分の落ち込みや何もやる気が起きないなどの症状が続き、日常生活に支障が出る病気です。ストレスや疲れによって脳の働きに問題が生じるため、心身のエネルギーが欠乏状態になっているとも言えます。そのため、日常の活動エネルギーを取り戻すためにまず大切にしなくてはならないのが「休養」です。休職などで長期間休むことに抵抗感や罪悪感を感じてしまう人もいますが、「だらだら何もしないで過ごす」「寝たい時に寝て、起きたい時に起きる」「やりたくないことは無理をしない」など、自分のためにしっかり休養を取ることがうつ病治療にとって不可欠なのです。ストレスから離れ、心身がゆっくり休まる環境を整えましょう。
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うつ病の治療とは
うつ病の治療は「薬物療法」と「精神療法」があります。うつ病の症状や程度は人によってさまざまですが、まずは休養と薬物治療を同時に行うことが一般的です。十分な休養と薬物療法によってうつ病の症状はかなり回復しますが、うつ病は約半数の人が再発すると言われるほど再発率が高い病気です。そこで、良い状態を維持し再発を防ぐために精神療法が行われます。精神療法は薬物療法と組み合わせることで効果を発揮するとされており、実施する内容やタイミングは患者さんの症状や回復状況によって異なります。
薬物療法
うつ病の薬物治療には主に抗うつ薬が使用されます。日本で広く使われている抗うつ薬は主に以下の3種類で、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳の神経伝達物質に働きかけ抗うつ効果を発揮します。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
- NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
抗うつ薬は飲んだらすぐに効果が出るものではなく、個人差はありますが効果が出るまでに1~2週間はかかると言われています。薬の効果があらわれ症状が一見改善したように見えてもすぐに薬を飲まなくて良くなるということはなく、うつ病は再発のリスクがあるため医師の指示のもと薬を徐々に減らすなどしながら継続的に服用することが大切です。
また、抗うつ薬以外にも患者さんの症状に合わせて以下の薬を併用することがあります。
- 抗不安薬:うつ病の症状の、不安や緊張をやわらげる効果のある薬
- 睡眠導入薬:うつ病の症状の、「なかなか寝付けない」「睡眠中に目が覚める」など、睡眠障害を改善する薬
薬物療法における注意点
注意しなければならないのは、対人恐怖症や社会不安障害の場合、他の病気も紛れ込んでいる可能性もあるため、上記の治療法では効かない場合があります。
また対人恐怖症や社交不安障害の本質的な改善は「対人場面で自信を持って人と接すること」です。つまり薬物治療のみでは本質的な改善はされないため、認知行動療法を合わせて行なう必要があります。それらの療法を合わせて行える医療施設は殆どありませんが、当院では薬物療法に依存しない療法も提供しており500名以上の実績があります。詳しくはこちらをご覧ください「はじめての方へ・当院の特徴」
精神療法
うつ病は休養や薬物治療によって症状が改善しても、ストレスの対処法が身についていなければ悲観的な考え方や捉え方のくせによって再発してしまう可能性が高い病気です。そこで一般的に精神療法では、「認知行動療法」や「対人関係療法」が行われます。困りごとを振り返り、問題を整理して解決方法を探しながらストレス対処法を習得していきます。
- 認知行動療法:うつ状態を悪化させる悲観的な物事の捉え方や考え方のくせを変えていくことによって、柔軟な考え方や問題解決力などを習得します。
- 対人関係療法:うつ病と対人関係の関連性に注目した療法で、自分自身の感情を大切にしながら問題を分析し、対人関係のパターンを変化させていくことで改善を目指します。
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認知行動療法
当院では、クラーク&ウエルズ治療モデルに基づいた認知行動療法を取り入れることで患者様の心と体の状態を整理し、対人恐怖症(社交不安障害)の原因となる考え方や振る舞いを変えていくことを目指します。
歪んだ自己イメージを修正するためのビデオフィードバックや社交不安のきっかけとなったトラウマを見つけだしその記憶を書き換えるトレーニングなど、根本的な改善を目指したプログラムを用意しています。
その他にも「森田療法」という精神療法をもとに治療を行います。誤った認識によって精神的な葛藤を起こし「症状」になったものを単純な不安に戻していく治療法です。
一時的な治療や回避を続けていると、後になって自己嫌悪や後悔し、悪循環に陥る可能性があります。そのため、ストレスを溜めない方法や、コーピング(ストレスが溜まった時の対処法)を身につけることが大切です。
認知行動療法について詳しく知りたい方は「治療法について – 認知行動療法」を合わせてご覧ください。
うつ病はどのように回復するの?
うつ病の回復経過には主に以下の3つの段階があります。
- 病初期(急性期)
- 回復期
- 維持期(安定期)
十分な休養と薬物治療によって症状が改善し「もう大丈夫だ」と本人は思っていても、うつ病は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら改善していくために自己判断はとても危険です。逆に治療の途中で症状が悪化することがあっても悲観することはありません。うつ病の治療は完全に良くなるためには時間が必要なのです。長い治療期間に症状の一進一退に振り回されないためにも、うつ病の回復経過を理解しておくことはとても大切です。
病初期(急性期)
この時期は、気分の落ち込みや意欲の低下、睡眠障害や食欲の低下など、うつ病の症状がもっとも強く出ている時期です。「何もする気が起きない」「何も考えられない」など活動エネルギーが欠乏している状態のため、ストレスから離れて十分な休息を取ることが大切です。休養とあわせて薬物治療を開始すると1~3カ月ほどで回復傾向が見られますが、人によっては半年以上かかることがあります。抗うつ薬の効果があらわれるためには時間がかかるため、焦らず継続して薬を飲み続けましょう。この時期は何よりも休養が大切ですので、ストレスがかからないよう過ごしやすい環境を整えることも大切です。
回復期
回復期では、「寝て過ごすことに飽きてきた」「掃除がしたくなった」など、徐々に症状が落ち着き自然にやりたいと感じることが出てきます。この時に今までの休んでいた時間を取り戻そうと、焦って何でもやろうとしないことが大切です。調子がいいと思った翌日に症状が悪化するなど、まだまだ調子に波があり体調も万全ではありません。調子に波があることを理解し、無理をせず段階的にできることを増やしていきましょう。
維持期(安定期)
回復期を過ぎ、症状が安定してくると治ったかのように思われますが、まだまだ油断はできません。うつ病がやっかいなのは、一度良くなっても症状が再びあらわれたり、しばらくた経ってからまたぶりかえす再発のリスクがあるからです。そのため、うつ病の症状が回復してからも1~2年は薬物治療を続け、調子の良い状態を維持しながら再発予防をする必要があります。日常生活や社会生活を取り戻す中で、うつ病になった原因をもう一度見直し、環境調整や不調のサインに気付けるよう周囲に話しておくなど、再発予防の工夫も取り入れるとよいでしょう。
うつ病から立ち直るきっかけのかぎは「自信の回復」
うつ病になると、自分が全て悪いと思い込んだり、自分は何をやってもダメだなど、自分自身を否定して自信を失いマイナスな気持ちが高まってしまいます。「自分は誰からも必要とされていない」との思い込みによって心身のコントロールができなくなってしまうため、「自信の回復」がうつ病から立ち直るきっかけのかぎといえます。症状が安定しやりたいと思うことができるようになったら、「誰かのお願いを聞く」などちょっとした人のためになることをしてみると良いでしょう。「ありがとう」と人から言ってもらえることで、役に立っている実感を感じることができます。今日一日できたことを書き出して、ひとつひとつできたことを自分で褒めることも良いでしょう。小さな達成感の積み重ねが自信の回復につながります。うつ病の治療のひとつである認知行動療法は、マイナス思考の考え方や捉え方の偏りの修正に効果的とされています。
うつ病の療養中にやってはいけないこと
うつ病は完全に回復するまでに時間がかかります。その間、気をつけるべきポイントが以下の3つあります。症状の悪化や再発を防ぐためにも、十分に理解しておくことが大切です。
- 焦らないこと
- 重大な決断をしないこと
- 自己判断で治療をやめないこと
焦らないこと
うつ病は真面目で責任感が強い人がなりやすいと言われていますが、うつ病の回復のために休養をしていても「自分だけ休んでいていいのだろうか・・・」「早く社会復帰しないと!」など焦りや不安でいっぱいになってしまうことがあります。しかし、うつ病の回復において何よりも重要なのが「十分な休養」です。だらだら過ごすことも治療の一部であるため、本人だけでなく家族や周囲の理解も必要になります。無理をしたり復帰を急ぐことは再発リスクを高めてしまうため、焦らず少しずつ段階を経て回復していくのを待ちましょう。
重大な決断をしないこと
うつ病になると、思考力や判断力が低下するため正しい判断ができなくなります。退職や転職、離婚など、重大な決断をすることは避けてください。健康な時でも慎重に判断すべき事柄です。判断力が低下した中で決断してしまうと、後々に影響し後悔からうつ病の悪化や再発を招く恐れがあります。うつ病が回復し、物事の良し悪しの判断が本来の状態に戻るまでできるだけ先延ばしにしましょう。
自己判断で治療をやめないこと
状態が良くなってくると、「もう大丈夫だろう」と薬の服用や通院を自己判断でやめてしまうことがあります。うつ病は回復してからも医師の判断のもと、しばらくは再発予防のため薬物治療を継続的に行う必要があります。そのため自己判断での治療の中止は絶対に避けてください。また、調子が良くなってくると薬の飲み忘れも良くあることです。必ず医師の指示通りに薬を飲むようにしましょう。
うつからの回復力を高めるためにしたほうがいいこと
うつ病は出口の見えない暗いトンネルをさまよっている状態にたとえられます。治療を開始してからも一進一退を繰り返しながら少しずつ回復していくため「本当に治るのだろうか」と不安になることも少なくありません。焦りは禁物ですが、うつから少しでも早く立ち直るために回復力を高める以下の4つのポイントをご紹介します。
- 日光を浴びる
- 生活リズムを整える
- 軽い運動をする
- 自分の気持ちを大切にする
日光を浴びる
うつ病は、意欲や活力を伝える働きをしているセロトニンやノルアドレナリンという神経伝達物質が減少していることによってうつの症状があらわれます。日光を浴びるとこのセロトニンの分泌量が増えると言われているため、心のバランスを整える効果が期待できます。朝起きたら日光を浴びて、1日のリズムを作るようにしましょう。
生活リズムを整える
うつ状態になると、寝る時間や起きる時間が不規則になったり寝たきりの状態が続くなど生活リズムが不規則になります。初期の段階では休息が何よりも大切ですが、回復の傾向がみられたらまずは生活リズムを整えましょう。同じ時間に就寝・起床し、バランスの良い食事をとることで自律神経を整えることができます。休職している場合は、生活リズムを整えることが復職に向けての第一歩になります。無理のない範囲で少しずつ改善していきましょう。
軽い運動をする
軽い運動もセロトニンの分泌を増やす効果があるとされています。「動きたい」と思えるようになったら、まずは散歩やストレッチから始めてみましょう。自宅で過ごすことが多いと体力も低下しています。体力を取り戻すためにもウォーキングやヨガなど、体を動かす習慣を身につけることが大切です。
自分の気持ちを大切にする
うつ病の症状がよくなり外に出られるようになると、家族や友人から気分転換のために外出の誘いを受けることがあります。「せっかく誘ってくれたから」と無理に誘いにのらず、「今は外出する気分じゃない」と感じたら自分の気持ちを優先しましょう。自分の気持ちが楽になったり、心地よいと感じることを生活の中に取り入れていくことが大切です。
まとめ
うつ病の回復で何よりも大切にしなければならないのが「休養」です。「だらだら何もしないで過ごす」「寝たい時に寝て、起きたい時に起きる」「やりたくないことは無理をしない」など、まずは自分のためにしっかり休養を取ることがうつ病治療にとって不可欠です。ストレスから離れ、心身がゆっくり休まる環境を整えましょう。
休養と薬物治療によって症状が安定しやりたいと思うことができるようになったら、「誰かのお願いを聞く」などちょっとした人のためになることをしてみると良いでしょう。自信の回復はうつ病から立ち直るきっかけのかぎとなります。今日一日できたことを書き出して、ひとつひとつできたことを自分で褒めることも自信の回復に効果的です。
うつ病は完全に回復するまでに時間がかかります。その間、症状の悪化や再発を防ぐためにも以下の3つのポイントに気をつけてください。
- 焦らないこと
- 重大な決断をしないこと
- 自己判断で治療をやめないこと
うつ病の治療は、一進一退を繰り返しながら少しずつ回復していくため「本当に治るのだろうか」と不安になることも少なくありません。焦りは禁物ですが、うつからの回復力を高めるためには主に以下の4つのポイントを取り入れましょう。
- 日光を浴びる
- 生活リズムを整える
- 軽い運動をする
- 自分の気持ちを大切にする
あらたまこころのクリニックでは、うつ病の患者様に対して“薬だけに頼り切らない治療”を専門的に実施しています。うつ病やうつ病の治療に関して悩まれている方は、お気軽にご相談ください。
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監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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