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公開日: |更新日: パニック障害

パニックと嘔吐恐怖について②

パニックと嘔吐恐怖について②

パニックと嘔吐恐怖について② ~嘔吐、吐気が起こる理由~

 

1 パニック障害と嘔吐恐怖症

2 嘔吐、吐気が生じる理由

3 嘔吐、吐気の機能

4 当院での嘔吐恐怖症の治療

 

1 パニック障害と嘔吐恐怖症

嘔吐恐怖症とは嘔吐や吐気、吐きそうな状況、他人が吐くことや吐しゃ物などに対して恐怖を感じる病気です。パニック障害と同じ不安障害に含まれる限局性恐怖症の一つに分類されています。

嘔吐や吐気、他人が嘔吐するのを目にする等に対して不安や恐怖を強く感じる人は、案外多くいらっしゃいます。アメリカでは「嘔吐恐怖症の患者の会」Emetophobiaの患者さんたちの会(自助グループ)も各地で開催されているようです。

嘔吐恐怖にはいくつかタイプがあり、見分けて治療などアプローチが変わることがあります。ひとつは、パニック障害のパニック発作の症状のなかでも吐気が強いタイプです。もう一つは、子供の頃に人前で嘔吐したことで恥ずかしい思いや嫌な記憶がある人が、大人になり人前で吐き気が強くなることで不安を感じ、その不安から友人と会食できない又は電車などに乗れず、大事にしている人や場所を避け、日常生活がつらくなっていき自己嫌悪に陥るといった経過でしょうか。嘔吐恐怖と一口にいっても、嘔吐と恐怖との結びつき方はそれぞれですので、その人にあった治療方法を検討します。

 

2 嘔吐、吐気が生じる理由

嘔吐、吐気という体の反応について少し詳しい話をすると、嘔吐恐怖のような恐怖症、不安障害では、「戦うか逃げるか反応」といわれる不安や恐怖を感じた時に起る身体の反応の知識が役に立ちます。この反応はシマウマがライオンから逃げるような、命がけの場面では非常に重要な役割をする反応です。何はともあれ、とにかく逃げるために自律神経(交感神経)が活性化して、手足を早く動かすための反応で、これにより動悸、息切れ、発汗、吐気などの身体症状が生じます。吐気は、命がけのときにのんびり消化活動を行っている余裕はないので、体内に残っている物を排出しようとする反応です。「戦うか逃げるか反応」を司る脳は3万年前からほとんど進化していません。私たちの遠い先祖は唯一の「武器」である脳を使って、つまり、いち速く「戦うか逃げるか反応」が作動して、全力で危険から脱出、生き延びることができた人たちです。彼らの子孫である私たちには遺伝子レベルでこの反応が組み込まれています。

 

3 嘔吐、吐気の機能

さらに、嘔吐は不安障害の症状の1つでもあることに加え、腐った食べ物や毒を口に入れた時に、毒が体に入る前に嘔吐して出すことで命を守る特別な反射でもあります。3万年前は過酷で、肉食獣の他、感染症や腐ったものや毒を口にすることも日常茶飯事なため、生まれて12歳まで生き残れた人は少なかったと言われています。冷蔵庫、ウーバーイーツ、救急車、抗生物質もありません。そのような環境の中で生きる私たちの先祖の命を守ってくれたのが「戦うか逃げるか反応」と「嘔吐」です。それだけ脳と身体感覚の奥底に遺伝子レベルでインプットされています。なので、嘔吐は危険な症状ではなく、何万年前から私たちの命を守ってくれたものなのです。

しかし現代社会では、それらは文化的には嫌悪されるようです。時代も古代ローマ時代では、宴席で吐くことはOKで、それどころか美食追求のため、上手に吐かせてくれる専門の職人までいたそうです。昔は嘔吐は自然なこととして寛容だったのかもしれません。現代社会では、人前で嘔吐するのは恥ずかしいことだと嫌われる文化なので、これが患者さんには、自己嫌悪や無力感、恥ずかしさなど自己イメージになってしまい、とてもつらいことになります。

 

4 当院での嘔吐恐怖症の治療

嘔吐恐怖の治療は、嘔吐恐怖のタイプによって体の些細な異変が、どんどんコントロール不能になり苦手な場所が広がっていく」というパニック障害の治療法と、「本当は人が好きだけれども、自分のどこかが人に変に見られ、仲間はずれになるのではないか」という不安を感じる社交不安障害の治療法の両面から検討し、アプローチします。段階的曝露といって、できる事から順番にチャレンジして、馴らしていく取り組みです。最初はチャレンジするのがすごく嫌だったという方もグループの中で他の患者さんと一緒に取り組むことで、チャレンジできたという方がいらっしゃいます。さらに嫌悪感などにはマインドフルネスが有効なこともあります。薬物療法と、嘔吐恐怖の医学的知識を得た前提で、専門家の指導の上で毎日の練習が必要です。当院では個別面接や不安障害のグループで治療に取り組んでいます。お困りの方はぜひご相談ください。

 

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。