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冬季うつ,ウインターブルー、季節性感情障害  実は身近なうつ病

冬季うつ,ウインターブルー、季節性感情障害   実は身近なうつ病

はじめに 落ち葉とともに忍び寄るうつ病

 通常のうつ病(大うつ病性障害)は、日本では15人に1人(女性は12人に1人、男性は29人に1人)が、一生のうちに一度は経験するといわれている身近な病気です。

 その中に、冬季うつ病があります。DSM-5と言う診断基準では、季節型の反復性のうつ病なります。冬に日照量が低下して現れる、れっきとしたうつ病です。原因は脳内のセロトニンが減ってしまい、うつ状態になるというメカニズムは共通していますが、秋になり目に入る光が減り、うつ、過食、過眠になり、春が近づくにつれて回復し、次の年、また同じことがくり返されるところが特徴的です。非定型うつ病や双極性障害2型といった他のうつ病のタイプとの鑑別が治療する際には大切です。冬季うつ病だとしても、「自分は変な病気なんだ」と自信を失ったり、「自分はだらしない怠け者だ」と責める必要もありません。光の感受性に敏感なある種の体質なために、様々な「症状」が現れるだけで、自分を責めずにうまくコツを工夫して、この冬季うつ病(季節性感情障害)と付き合っていけると良いですね。これらの「症状」は、人類の進化の中で、昔は「生き残り」という視点では役に立っていたのが、現代社会では、周りとの生活にギャップができてしまうということかも知れません。だから自分を責めるのではなく、解決法を見つけたいですね。

 落ち葉の季節からうつ病になるので、落ち葉症候群falling leaves syndromと言われたり、冬季うつ季節性感情障害ウインターブルーと呼ばれています。

 1984年にアメリカの精神科医のノーマン・ローゼンタールにより季節性感情障害,「冬季うつ病」として初めて報告されました(季節性うつ病、講談社現代新書)。

10月頃から冬にかけて、うつ病が現れ、春先の3月頃になると良くなるというパターンを繰り返すのが特徴です。

冬に向けて日光の時間が少なくなることが引き金になって、発症すると言われてきましたが、最近の研究では少し違う見解が示されています。

冬季うつ病ってどんな病気?食べたくなり眠くなる

 秋から冬にかけて、何の前触れもなく、気分がウツウツと落ち込み、人と会いたくない、何もかもおっくうになる、体もだるい。

 そして、甘いもの、とくにチョコレート、菓子パンなど炭水化物を、夜、むしょうに食べたくなって太ります(そのため、冬季うつ病はまるで冬眠に似ていると表現されることがあります。)。眠くて朝起きられず、日中も眠気に襲われます。

 しかし、冬季うつ病の患者さんに限らず、私たちも、同じような傾向になります。実は、どこからが冬季うつ病で、ここまでなら健常という線が引けないのです。スペクトラムと言う考え方です。誰でも冬は、脳内のセロトニンが減ってしまうからです。

まずは気分や睡眠の季節変動の大きさをチェックしてみましょう

 以下に示すのは、SPAQ(Seasonal Pattern Assessment Questionnaire)という、季節性のうつ病をチェックするスクリーングテストです。一応の目安です。

合計点が

7点以下・・・季節変動が正常範囲内

8~11点・・・冬季うつの前段階

12点以上・・・冬季うつの可能性がある

とされます。

どんな人がなりやすいのか?

 多くの調査があり、地域でかなりばらつきがあります。ある報告では欧米では1~10%、日本では2.1%の人々が、冬季うつ病かもしれないと報告されています。

別の調査では、アメリカで0.4%、カナダで2.9%、日本では、学生で0.91%、勤労者で0.45%と言う報告もあります。日本でも北国と南国では違います。

 発症年齢は20歳代前半で、女性に多く(男性の3倍から4倍)、緯度の高い地方(つまり北国)では増大するといわれます。

ある研究では、冬季うつ病の人は、夏の強い日差しではメラトニンが下がりすぎ、冬では長時間、分泌されることが分かっており、冬の弱い日差しでは睡眠リズムが乱れ、脳内セロトニンが低くなる体質と言われています。健常人でもこういう傾向はありますが、季節の光の変化にガツンと過敏に反応してしてしまう。

つまり、光に対する感受性が、とても強い体質により、季節の変化に敏感な人がなりやすいと言われています。

光の時間だけでなく、光の量が大事!

“日照時間”だけではなく、“日照量”が少ないことが発症の引き金とされています。

 たとえば…

①鹿児島県奄美市でも冬季うつ病が多い。南国である奄美市は、日照時間は長いはずですなのに…

②梅雨に悪化する人もいます。夏なので日照時間は長いはずなのに…

一見、「日照時間が短いから冬季うつ病が発症する」という説は当てはまらないように見えますが、、

この2つに共通するのは、“曇りが多い”と言うことです。

たとえ、日光に当たっていたとしても、雲にさえぎられているので、光が弱まっているのです。つまり、気温や湿度、時間ではなく日照量ということでしょうか。

もう一つは、天気による気分の変化です。

晴れている気持ちが明るくなって、

雨や曇りだと気が沈みます。

 これは、1日の内でも、光の量によって脳内のセロトニンが敏感に変化している事を示しています。

最近の研究報告で明らかになってきました。

気分が、その日の天気(光の時間と量)に左右されるのが、冬季うつの本質です

セロトニン(幸せホルモン)とメラトニン(ダークホルモン)

冬季うつ病の患者さんの脳の中で変化しているもの…。それが、セロトニンとメラトニンです。

幸せホルモンセロトニン-心身を安定させ、痛みを和らげる

 セロトニンは、心と体のバランスを整える伝達物質です。クヨクヨしない、スッキリした意識になる、喜びや楽しさを感じる、体を活動する、痛みを抑えるなどの作用があるので、幸せホルモンと呼ばれています。

うつ病のように、セロトニンが少なくなると、些細なことでクヨクヨ考え、悲観的に物事を考え、眠れなくなります。食欲の異常も引き起こします。うつ病の薬は、多くはセロトニンを増やす作用があります。うつ病の薬は、クヨクヨしない薬(Don’t Worry Drug)と言うあだ名が付いています。

冬は健常人でも脳の中のセロトニンは、減っている。

 冬に日照量が低下する結果、健康な人でも冬は、脳の中のセロトニンが顕著に低下するということが、わかっています。冬季のセロトニン低下が、うつ症状に繋がっていることが考えられます。

セロトニンは規則正しい生活をしたり、光を浴びたり、ジョギングなどの運動で増加すると言われています。また最近では、涙を流すことでセロトニンが増えるとも言われています。

チョコレート、菓子パンなど甘い食べ物が、むしょうに食べたくなることも、セロトニンが関係しています。

 一言で言えば、炭水化物をドカッと食べることは、脳のセロトニンを増やす作用があります。つまり、冬季うつ病では脳のセロトニンが減ってしまった状態、つらい状態から、何とか健康な状態に戻すために、無意識に甘い食べ物をドカッと口に入れて、脳内のセロトニンを増やして対処しているのです。甘い食べ物の過食が自己流の治療になってしまっているのです。だから、「過食が止められないのは意志が弱いからだ」とご自分を責める必要はないです。科学的な対処があります。

ダークホルモン メラトニン-暗闇(夜)を伝えるホルモン

 目に光が入り網膜から視床交叉上核で体内時計を規則的に整え、脳の松果体で生成され、体温や血圧を下げる作用もあり、私たちを睡眠へ導く働きをするホルモンです。メラトニンは、朝、目に光が入ると分泌が止まります。日中はほとんど分泌されませんが、大体15時間後に再び分泌され、夜に眠くなります。朝7時に起きたとするとメラトニ分泌が止まり、22時頃にメラトニンが分泌され、眠くなり始めるということですね。

その際に重要なのは、朝、しっかりと“日光”を浴びる事。日光を目に入れないと、メラトニンを分泌するリズムが乱れるのです。例えば、朝7時に起きても、8時まで遮光カーテンで真っ暗な部屋にいたとすると、メラトニンは15時間後、つまり23時に分泌され始めるので、体内時計が1時間分ずれてしまうかもしれないのです。

ちなみに、日光の方が良いでしょう。メラトニンの分泌に影響を与えるには、2,500ルクス以上の明るさが必要とされています。2,500ルクスとは、晴天における日の出くらいの明るさ。電灯は、せいぜい1,000ルクス程度ですので、電灯では弱すぎるかもしれません。スマホなどのバックライトは、影響が大きいので、遅い時刻や寝る前は避けた方が良いでしょう。

 

 メラトニンには睡眠・覚醒や季節感、日々のホルモン分泌などのリズム「概日リズム(がいじつリズム)」にも関与しているため、

冬季に日照量が低下することで、メラトニンが不足し、睡眠など様々な変調の原因となるのです。

まとめ

 いかがでしたでしょうか?

今回は冬季うつについて、皆さんにご紹介していきました。

冬季うつでは、冬季の日照量の低下により、メラトニンやセロトニンの分泌が乱れ、その結果、急に気分が落ち込み、何もかもおっくうになり、身体もだるくなどのうつ症状に加えて、過食(炭水化物が食べたい)・過眠などの冬季うつに特有の症状も現れます。

春になると良くなり、また冬になると同じ症状を繰り返します。

毎年やってくる辛い時期を乗り切るために、症状を和らげるための対処方法を学んでいきましょう。

 

<冬季うつについての関連記事はこちら>

冬季うつの対処 幸せホルモン(セロトニン)とダークホルモン(メラトニン)を味方につける

 

<冬季うつへの対処についてはこちら>

うつ病とは、どんな病気ですか? https://www.mentalclinic.com/disease/p468/

 

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。