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公開日: |更新日: パニック障害

パニックと嘔吐恐怖について①

パニックと嘔吐恐怖について①

嘔吐恐怖症とは?パニック障害との関係

 

1 嘔吐恐怖症ってどんな病気?

2 吐気がした場合の対処法

3 治療は専門家に相談を

4 当院での嘔吐恐怖症の取り組み

5 嘔吐恐怖の方の症状例

 

1 嘔吐恐怖症ってどんな病気?

嘔吐恐怖症とは嘔吐することや、人前での嘔吐、他者の嘔吐を見ることなどを過度に恐れる限局性恐怖症の一つで、パニック障害と同じ不安障害に含まれます。嘔吐や吐気、他人が嘔吐するのを目にすることなどに対して不安や恐怖を強く感じる人は案外多くいらっしゃいます。

 

2 吐気がした場合の対処方法

体がどこも悪くないのに気持ち悪くなった時に、とりあえず一人でその場でできる事としては、落ち着ける場所に行き、落ち着くまでやり過ごすことがあります。不安から呼吸が速くなっているかもしれませんので意識的にゆったりとした呼吸をするとよいかもしれません。呼吸のコツはゆっくりと息を吐くことです。ただし、これはとりあえずできることです。今日、明日、一人でいるときにとても気持ちが悪くなった場合、やってみてください。

3 治療は専門家に相談を

嘔吐恐怖を治療しようと思ったら、クリニックなどで専門家にご相談することをおすすめします。辛い症状を抱えながら一人で何とかしようと自己流の「工夫」を続けていると、苦手な状況や行動を避けることが増えてしまったり、症状を維持するような行動が習慣となり悪循環に陥ってしまったりすることがよくあります。私たちは不安や恐怖を感じるものからは離れたいと感じるものなので、離れたいと思うこと自体は自然なことです。しかし、この不安の回避や安心感を得るための行動というものは、かえって症状にとらわれた生活へと陥らせます。不安症、恐怖症はこういった症状を維持する安全保障行動と呼ばれる症状が生じるメカニズムがあり、実は、これが一番重要な問題です。ここにしっかり取り組まないと不安障害の治療は進みません。一人で抱え込まずにクリニックなどで専門家と一緒に治療に取り組まれると良いでしょう。

 

4 当院での嘔吐恐怖症への取り組み

治療は、嘔吐恐怖のタイプによって「体の些細な異変が、どんどんコントロール不能になり苦手な場所が広がっていく」というパニック障害の治療法と、「本当は人が好きだけれども、自分のどこかが人に変に見られ、仲間はずれになるのではないか」という不安を感じる社交不安障害の治療法の両面から検討し、アプローチします。段階的曝露といって、できる事から順番にチャレンジして馴らしていく取り組みです。さらに嫌悪感などにはマインドフルネスが有効なこともあります。薬物療法と、嘔吐恐怖の医学的知識を得た前提で、専門家の指導の上で毎日の練習が必要です。道具は、コンビニで無料でも手に入る、ある物で十分です。私の診察室の机にも「常備」しています。是非、一歩ずつ進んでいきましょう。

 

5 嘔吐恐怖の方の症状例

実際の患者さんのケースではありませんが、嘔吐恐怖で来院される方によくあるストーリーです。子どもの頃に食べきれない給食を無理して食べて気持ち悪くなって以来、吐くことも吐きそうになることも怖くなり、お腹いっぱい食べることを避けるようになりました。揚げ物や油っこい食べ物はさけて、さっぱりした食事を中心に少しずつ食べる食生活を続けてきました。炭酸飲料もお腹が膨れる感じがするので苦手です。外出前の食事も避けるようになり、人との食事も苦手です。ランチの時間は人の少ない場所で軽く済ませてしのいでいました。飲み会の誘いや会食も断るため、人間関係を深めるきっかけもつかめず、日常的に吐気に対して不安を抱える生活が辛くなりこころのクリニックを受診しました。

初診や、スタッフによる面接でこれまでの経緯や現在の生活、嘔吐、吐気に対してどのように感じているか、どのようなことを避けているのか等詳しくお話をきかれました。患者さんは数回の面接の後、不安障害のグループに参加し、同様の症状を持つ患者さんと共に、症状について理解を深め、嘔吐、吐気に対して過剰に怖いと感じるようになったメカニズムを知りました。その後、すごく嫌なチャレンジだったのですが、怖いと感じている吐く感覚をグループのメンバーと一緒に実際に体験し、その体験を繰り返すことで、次第に吐気に対する恐怖感が下がり、から揚げを食べたり、人と一緒に食事ができるようになったりして、ランチタイムも苦痛ではなくなりました。

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。