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2010.07.16 うつ病

講演会(気分障害の真実と現実)に参加して…

気分障害の真実と現実

東京女子医科大学の坂本薫先生の講演会に参加してきました。坂本薫先生は、うつ病の治療に関する最先端を行く方で、大変貴重な話を聞くことができました。

最近のうつ病キーワード

最近のうつ病のキーワードには、治療抵抗性うつ病、高齢者のうつ病、双極スペクトラム、うつ病セレブとうつ病難民、不安障害の併発、リワーク支援、自殺予防、などの話がありました。
うつ病は、誰にでも起きる可能性がある「心の風邪」と聞いたことがある方もいるかもしれません。心の風邪なら病院に行って、薬を飲んだらすぐに治るというイメージを持たれる方もいます。しかし、うつ病の中にはなかなか良くならない方も見られます。このような方を治療抵抗性うつ病と呼んでいます。適切な薬物治療を行っているにもかかわらず(行われていない場合もありますが)、症状がなかなか改善しません。
その多くは、本当は双極性うつ病なのにうつ病だと医師が診断して、抗うつ薬を処方し続けている場合、パニック障害社会不安障害の不安障害が併発している場合、会社や家庭環境の問題、若者のうつ病、アルコール乱用や依存症の併発、身体の病気(身体疾患)によって精神症状が改善しない方などがあります。

薬物療法の話

薬物療法では、それが適切かどうか見直し(Re-diagnosis)、効果が出れば増量して(Titration)、効果がない薬は変える(Switching)、ある程度効いてくれば加える((Augmentation)を繰り返しながら、患者さんの症状が回復するように努力をしています。たまに見られるのが、症状が改善していないのに、同じ薬でずっと治療をしていたり、症状が改善されないから、どんどん薬を増やしていったり、効果が出るまで薬の量を増やさずに十分量出さなかったりするなどの治療が見られることがあります。このような治療の場合、うつ病が改善されず、治療が長引いてしまうことがあります。

高齢者のうつ

高齢者のうつ病の特徴には、不安・焦燥、身体症状、心気的(常に何かの病気だと思う)、妄想、認知症などがあります。特に重要なのは、治療者側にも問題があり、高齢者は治りにくいという思い込みがあるということです。しかし、研究では高齢者だから治りにくいということはありません。
うつ病と認知症が合併すると、認知機能が低下してしまいます。そこで認知機能を低下させないためのお薬(ミルナシプラン)があります。比較的このお薬は、認知機能を低下させないという研究があります。

気分障害スペクトラム

最近、「双極性障害」とか「双極Ⅱ型」、「双極スペクトラム」などという言葉を良く耳にします。私たちが「うつ病」と呼んでいるものは、医学的には単極性うつ病と呼んでいます。双極性障害とは、今まで落ち込んでいた人が、急にハイ状態になり、気分が高揚して、睡眠も短時間だけしか取らないのに元気が何倍にも出るという病気のことです。しかし、ハイ状態の後、必ずうつ状態となり、これを何度も繰り返している方のことを言います。
双極スペクトラムとは、うつ病を単極性や双極性と二分法で分けるのではなく、スペクトラム(連続性)で考えるという新しい考え方です。単極性と双極性の中間の人もいるのではないかというものです。特に、双極性になりやすい要因として、抗うつ薬(SSRI)を服薬したら気分が上がってしまった方、うつ病を3回以上経験している方、季節によって気分が上がる方、双極性うつ病の方が家族にいた方、若年にうつ病になった方、などがあげられています。最近のうつ病治療では、常に双極性を視野に入れながら、この患者さんはどのくらい双極性になりやすいのかという視点を持ちながら、診察を行っています。
では、なぜ、単極性うつ病と双極性うつ病をそれほどまでに見極める必要があるのかという疑問をもたれた方もいると思います。実は、単極性うつ病と双極性うつ病では治療薬がまったく別のものになるのです。単極性うつ病の方には、SSRIという抗うつ薬を処方します。しかし、双極性うつ病の方に抗うつ薬を処方すると、躁状態を高めてしまうという働きを持っていますので、気分安定薬というお薬を処方します。
先ほどもお話しましたように、単極性うつ病だと思い、双極性うつ病の方に抗うつ薬が処方されており、治療が長くなってしまっている方が見られます。この双極性うつ病は、見逃されていることがまだまだ見られるようです。

最後に…自殺予防

静岡県では、うつ自殺予防対策「富士モデル」という取り組みが行われています。精神保健福祉センターを中心に、市町村や医療機関、産業、福祉、保険の領域の人などが連携しながら、地域で自殺予防を行っているようです。「2週間以上の不眠はうつのサイン」というキャッチフレーズで、睡眠キャンペーンが実施されているようです。今後は、全国的に自殺予防の取り組みが増えていくと思います。

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市からアルコール依存症専門医療機関、日本精神神経学会から専門医のための研修施設などに指定されている。