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大人の発達障害のADHDは他の精神疾患を併発しやすい?双極性障害やうつ病、PTSDとの違いを紹介

大人の発達障害のADHDは他の精神疾患を併発しやすい?双極性障害やうつ病、PTSDとの違いを紹介

はじめに

  あらたまこころのクリニック院長加藤が、第116回日本神経精神学会学術総会に参加しました。

今回はその内容の中でも、ADHDと精神科の病気との合併症に関する情報を皆さんにお伝えいたします。

発達障害かもしれない?

  • 人生の中で、失敗を繰り返すうちに、人の目が気になる、朝起きるのもおっくうで学校(会社)に行けない、相手のちょっとした言葉に傷ついて切り替えられない、気持ちが高ぶって眠れないなど、こころの症状が出るようになった。
  • 「うつ病」と心療内科、精神科で診断されて長く通院しているが、治らないし、治療方針が腑に落ちない。新型うつ病かもしれないと考えることも。

それは、発達障害(神経発達症)と精神疾患(うつ病、双極性障害・不安障害・トラウマ)の合併かもしれません。

重ね着症候群と呼ばれることもあります

ADHDのおさらい

  今回は発達障害の中でもADHDに絞ってお話させていただきます。まずは、ADHDのおさらいから。

 ADHDとは不注意と多動、衝動性を症状とする神経発達症です。不注意型・多動/衝動型・混合型の3つに分けられます

発達障害(神経発達症)とは、幼少期より一貫してみられる脳の発達の特徴と考えられています。

  ADHD でも、男女差があり、男性は「多動」や「衝動性」が強く表れる傾向があり、女性は、「不注意」の特徴が強く表れる傾向が多いようです。

「不注意」は幼少期には気づきにくい特徴なので、女性は幼少期にADHDと診断されることが少なく見逃され、成人して会社に勤めたり、結婚したり環境の変化で、

ADHDの特性で躓き、適応障害、うつ病などを発症することもあります。

ADHDは他の精神疾患を合併しやすい

 上の図をご覧ください。ADHDに併存する精神疾患の割合を示しています。様々な精神疾患がADHDと併存することが分かります。発達障害(神経発達症)における併存症の存在は、

二次障害重ね着症候群などの名称で注目されてきました。大多数派の人とは異なる少数派の認知特性を持つ発達障害者は、

  1. 社会場面で失敗しやすく、叱責や否定的評価を受けやすい。
  2. 多数派の認知特性に合わせた社会ではストレスをため込みやすい(音に敏感・あいまいな指示では先の見通しが立ちずらく不安になりやすい、などなど)。
  3. 周囲から理解されにくく、独特な感覚や考えを、それに伴う苦労を共有する仲間が少ない。

などの理由で心や体の不調を抱えやすい傾向にあるのです。

これはADHDに限らず、発達障害(神経発達症)全般に言えることですね。

 その中でも、双極性障害と複雑性トラウマ は症状の類似点が多く、ADHDとの併存も多いと言われています。

双極性障害では、遺伝的な共通性やADHD症状→気分の揺らぎ→気分障害への接続性につながり、 複雑性PTSDではADHDにおけるPTSDのなりやすさや神経伝達物質レベルでの共通性が想定されています。

ADHDと双極性障害・複雑性PTSDは似ている

 ここからは、日本神経精神学会研修における柏敦先生のご発表(成人期ADHDの鑑別診断)をもとにお伝えしていきます。

双極性障害

ADHDの多動や衝動性と双極性障害の軽躁症状が似ている

 上の図をご覧ください。これは、他の精神疾患でもADHDの症状に似た行動がみられることを示しています。とくに、双極性障害とADHDの間には重複が多く、その見分けは非常に難しいことが分かります。

併存の割合

研究からも、ADHDは気分障害のリスクが高いことが示されていて、ADHDと診断された人の5.1%-47.1%に双極性障害が認められたという研究があります。

ADHDと双極性障害の比較

 では、両者の共通点と相違点はどこにあるのでしょうか??それを示したのが下の図になります。

 ADHDのみ、双極性障害のみ、であれば以上のような違いを見分けることができますが、以下に示すように、ADHDの特性が双極性障害に繋がっていくことがあり、双極性障害の背後にあるADHDを見逃すことになりかねないので注意が必要です。

ADHDの症状は、気分の揺らぎにつながる

 上の図からわかるように、ADHDの多動/衝動性や不注意は、気分の揺らぎに繋がります

気分の揺らぎは、あくまで一時的なものですが、それが積み重なって、気分の層として、一定期間にまとまりをもつことがあります。双極性障害への発展です。

柏先生のご発表では、ADHDと非定型うつ病と双極性障害につながる連続したスペクトラムとしてとらえる視点を提供されており、私どもの診療場面での印象からも、その通りだなあと

とても勉強になりました。

非定型うつ病などの新型うつ病と似ている

 新型うつ病の代表格である非定型うつ病や双極性障害とも似ています。特に非定型うつ病の主症状の気分反応性は、診断するときにADHDと間違えやすいので注意が必要です。

双極性障害なら炭酸リティウムなどの感情調整剤、非定型うつ病なら一応、抗うつ薬、ADHDの多動や衝動性なら、コンサータや最近ではインチュニブという薬剤が使われます。

このように治療する薬剤が全然違ってくるので治療計画を立てる上で、どう診断するかは極めて重要です。

複雑性PTSDと似ている

 発達障害とPTSDの第1人者である、杉山登志郎先生は、ADHDと複雑性トラウマの症状の類似点を挙げ、「子どもの外傷性ストレス症状はADHDと誤診の可能性が高い」「大人になると見分けるのは、とても困難になる」ことを指摘されています。

複雑性PTSDとは、人生の中で対人関係における傷つきが反復して起こることで、心に深い傷=トラウマが残り、PTSDのような症状を呈する人たちのことです。

症状として、

  1. 侵入症状(過去の記憶が突然よみがえってきて、体が反応する)
  2. 回避症状(つらい過去を思い出そうとすることを避けようとして、引き金になる場所、人などを回避する)
  3. 認知と気分の陰性変化(否定的な考え方、興味を持てない、疎外感や孤立感)
  4. 覚醒度と反応性の著しい変化(イライラ、怖がり、集中できない、眠れない)

などがみられるようになります。

ADHDはPTSDになりやすいことが報告されている

  • PTSDの中にはADHDが10%みられる。
  • ADHDの第一親族にはADHDが51%、PTSDが12%みられる
  • 被虐待児には、通常の2-5倍の頻度でADHDがみられる
  • PTSDの退役軍人は、子どもの頃にADHDと診断された人が36%おり、成人になりADHDと診断された人が28%含まれる。

といった研究があり、これらの点から、ADHD症状はPTSD発症のリスクとなることが想定されます

そしてその背後に共通する要素として、「脳内神経伝達物資のカテコラミン(ドーパミンやノルアドレナリン)の揺らぎ(少なくなったり、多くなったり)がある」という仮説を提起されていました。

おわりに:精神疾患で治療を受けているけど、発達障害じゃないのか?と疑問を持ったあなたへ

 いかがでしたでしょうか。今回は、ADHDと他の精神疾患の併存についてお伝えしていきました。

発達障害と精神かの病気が合併した場合は、薬物療法などによりまずは、精神疾患の治療を行っていきます。しかし、精神疾患への治療と同時に、患者さん一人一人の発達特性を踏まえた、環境調整・生活習慣改善を並行して行っていくことが、より良い改善のために大切な事でしょう。つまり、精神疾患の背後にある発達障害を見逃さないことが大切なのです。

「精神疾患で精神科、心療内科に通っているけど、自分は発達障害なのかもしれない」と思われた方は勇気を出して、医師にご相談してみてください。発達障害の心理検査などについてこちらでご紹介しておりますので、お役に立てば幸いです。

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。