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公開日: |更新日: 働く人の発達障害

大人の発達障害について、院長が講演を行いました。

【目次】
神経発達症(=発達障害)のおさらい
自閉スペクトラム障害(ASD、アスペルガー症候群)とADHD
発達障害は併存疾患が多い 重ね着症候群
女性のアスペルガー症候群、ASDとカモフラージュ
おわりに

はじめに

大人の発達障害についてお伝えするシリーズの3回目です。

1回目では、ICD-11やDSM-5といった、最新の診断分類で使われるようになった、“神経発達症(=発達障害)”の概念について、

2回目では、神経発達症は“生活障害”であり、薬物療法や環境調整を通して、患者様が自分らしく生活しやすくしていくことの大切さについて、お伝えしました。

今回は、あらたまこころのクリニック院長の加藤が行った、発達障害についての講演の一部を、皆様にお伝えしようと思います。

神経発達症(=発達障害)のおさらい

 ICD-11やDSM-5といった、最新の診断分類では、発達障害を“神経発達症”と呼んでいます。“神経発達症”は、「生来性の脳機能障害」であり、それを「共通する特性を持ったいくつかのグループ」に分けています(ASD、ADHD、LDなど)。

生来性の脳機能障害であるため、幼少期から老年期まで一貫した特徴を保ちます。もちろん、「発達障害は発達する」という言葉があるように、適応的なスキルや振る舞いを習得したり、自身の能力を発達させたりして、より上手に生きていく事はできますが、“生まれ持った特性”は生涯残り続けると考えられています。

ASDとADHD

 神経発達症(発達障害)の特性は一人一人で異なりますが、「共通してみられる特性によるグループ分け(診断)」がされています。代表的なのが、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥多動症)です。

ASD、自閉スペクトラム障害、アスペルガー症候群

 見受けられる特性は2つです。

①相互的な社会的交流と社会的コミュニケーションを開始、維持することの能力の乏しさ

②限定され、反復的で柔軟ではないパターンの行動や興味が継続すること

 そして、先ほどお伝えしたとおり、これらは幼少期から一貫してみられる特徴です。

ただし、周りに合わせるために知的にカバーできる方の場合は、これらの特性が問題化するのがある程度、成長してからになることがあります。このようなケースも診断の対象です

 また、本人の多大な努力と工夫によって、外からは障害の存在がわかりづらい場合もあります(カモフラージュ、過剰適応)。大人になって初めて、発達障害(

自閉スペクトラム、アスペルガー症候群)と気づくことがあります。

ADHD

見受けられる特性は2種類です。

①不注意

ex活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど

②多動性・衝動性

exじっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど

①②のどちらかを満たすことで診断されます。①は不注意優勢型、②は多動障害衝動性優勢型、①②両方を満たすのは混合型です。

この行動はASD?ADHD?

一見するとASDに見える行動がADHDだったり、ADHDに見える行動がASDだったりします。さらに重要なことは、この両者は併存することが往々にしてみられるということです。加えて、後述しますが、発達障害では他の精神疾患の併存が多く見られます。他の精神疾患にも一見、発達障害に見えるような行動を示す症状があります。

何が言いたいかと言いますと、発達障害の診断は非常に難しいということです。インターネットを見て、「自分は発達障害かもしれない」と思っても、他の疾患が隠れている危険性もあるわけです。一度、発達障害を専門とした機関に相談することお勧めします。

上の2つの表は、同じ行動にも、“ASDを背景とするもの”と“ADHDを背景とするもの”があることを示しています。発達障害の診断は行動だけでなく、この“背景”をしっかりと把握しなければならない非常に専門性の高い作業であることがわかると思います。

発達障害は併存疾患が多い 重ね着症候群

 自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群、ASDの9~13%にうつ病、3~6%に双極性障害、17~23%に不安障害が、ADHDの7%にうつ病が、1~20%に双極性障害が、10~35%に不安症が見られるという報告があるように、発達障害の人は精神的な困難を抱えやすいことがわかります。

衣笠(2007)は精神保健センターを受診する成人の中に、高機能・高知能型の発達障害を認め、彼らが、発達障害を背景にしつつも非常に多彩な精神症状を呈することを発見し、それを“重ね着症候群”と命名し、その特徴などを報告しました(https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1090010036.pdf#search=’kasanegishoukougunn‘)。

大人の発達障害の方は他の精神疾患を抱えやすいのです。

精神的な問題を抱えやすいのには訳がある

 以下にその理由の一部をご紹介します。

<コミュニケーションが苦手>

そのため、ストレスとなるような出来事をうまく回避したり、うまく対処したりすることが出来ず、社会の中でストレスを被りやすくなります。

<先の見通しを持ちにくい>

先の見通しが持ちにくいため、不安を感じやすくなります。

<メタ認知が苦手>

自身を客観的に把握することが苦手なため、トラブルが起こった時にその原因がわからずに混乱し、不安を募らせやすくなります。

<周囲に理解されにくい>

ものの見え方や感じ方、考え方が少数派なため、困難を周囲の人にわかってもらいにくく、孤立しやすくなります。

女性のASD、アスペルガー症候群、自閉スペクトラム症とカモフラージュ

 先ほど、“本人の多大な努力や工夫によって障害が目立ちにくくなる”とお伝えしましたが、女性の場合はそれが顕著です。

誰かをそっくり真似た表情や仕草をしたり、自然のフレーズを丸暗記して使ったり、自分の意思ではなく相手の喜ぶ行動を優先することで社会的に受け入れられるように努力して、社会的に孤立することがなく、多動や不適切な行動も目立たない人たちがいます。ASD女性の「カモフラージュ」と言われます。男:女=4:1といわれるASDですが、ある程度成長してから発覚するような高機能のケースでは、女性の割合が増えます。

しかし、そうやってうまくやっているように見えても、疲れてしまったり、不安になったり、むなしくなったり、つらくなったりする方がおられます。

 日本での研究でも、女性のASD、アスペルガー症候群では、特性があっても、実際の診断は10~15歳と遅くなるとされています。また、対人関係の問題、感覚過敏、興味限局、不器用さや順序立ての困難、衝動性、抑うつや希死念慮が見られ、睡眠障害や心身症、適応障害を合併すると言う報告がされています。

ほかの研究でも、女性のASDでは、気分の浮き沈み、自己肯定感の低さ、うつ、不安、摂食障害などで医療ニーズが高く、社会的なサポートが必要なことが多いと報告されています。女性は男性よりも身体疾患の診断を受けている人が多く、自律神経失調症の診断を4分の1に認めた報告があります。

おわりに

いかがでしたでしょうか?

今回はあらたまこころのクリニック院長の加藤が行った、発達障害の講演の中から、

  1. ASDとADHDの特徴、
  2. 一見、同じ様に見える行動にも、ASDを背景にするもの、ADHDを背景にするもの、精神疾患を背景にするもの等があること、
  3. 発達障害はほかの精神疾患を抱え込みやすいこと(重ね着症候群)、
  4. 女性のASDは本人の多大な努力によって障害が目立ちにくくなるが、大変さを抱えていること

等をお伝えしました。

インターネットのチェックリストなどで、発達障害に当てはまる場合でも、実際には他の疾患が隠れている可能性もあります。一度、専門機関にご相談するとをお勧めします。

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。