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公開日: |更新日: アルコール依存症

お酒を減らしたい悩み 適量ってあるの?

お酒を減らしたい悩み 適量ってあるの?

は、【目次】
お酒好きを止めたくて苦労した偉人
お酒の適量は
アルコールの量を計算する
アルコール依存症の治療
まとめ

はじめに

皆様はお酒はお好きですか?夏はふろ上がりによく冷えたビールを、寒い冬には熱燗で一杯、週末には仲間で集まって酒と肴で会話も弾みます。

しかし、飲みすぎれば次の日に支障が出るし、身体や頭は重いし、酔っていい気分の反動で気持ちが暗ーく沈むなんて方も…。

お酒は、楽しいのものでもあるし、怖いものでもあるのです。

では、程よいお酒との付き合い方は??お酒の量は、何を目安にしたら良いでしょう??

偉人でも、やはりお酒はやめられない

実は、お酒をどれだけに抑えたら良いのか?と言う悩みは昔からありました。

今から800年前、鎌倉時代に、お酒を減らしたいと誓いを立てた偉い僧侶がいます。2022年のNHK大河ドラマに、「鎌倉どのの13人」が三谷幸喜脚本で決まりました。とても楽しいそうです。北条義時が主人公で、そのライバルが後鳥羽上皇ですが、そのブレーンを務めた人を義父に持つ人で、尊勝院宗性(1201-1278)という東大寺の僧侶です。学僧として名高く、朝廷行事まで務めるほど優秀で、様々な記録を後世に残しています。そんな偉くて優秀な人でも、お酒好きは止められなくて、苦労されたようです。
彼は34歳の時、禁酒の誓いを立てました。
「飲酒は諸仏が禁じているから、今日から1000日酒を止める」と決意を書き残しています。けれども、「酒は薬でもあるので、1日に3合は飲んでも良い」とも書いていて、アレ?どこが禁酒なの?。
当人もまずいと思ったのか、42歳の時には、「私は12才の夏から41歳の冬まで酒を愛して多飲し,酔っては暴れてきた。恥ずかしい限りだった。これからは、きっぱりとやめる。二度と飲まない」と再び、禁酒の誓いを立てた記録が残っています(日本中世史の核心、本郷和人、朝日出版社より抜粋)。
その後、お酒を止めたかどうかは怪しいけれども、減酒または禁酒をして、活躍され歴史に名前を残す程の大きな業績を残し、800年前の時代に、78才もの長寿を全うされたのは事実です。とても大切なポイントです。

お酒の適量は?

お酒に「適量」はなく、飲んだ分だけ害になるという怖い研究もあります。生まれつきの肝臓のアルコール代謝酵素の違いで、少しのお酒で顔が赤くなって気持ちが悪くなるタイプ、いわゆる下戸(ゲコ)と呼ばれる人です。
もう一方は、顔が赤くならず、たくさん飲めば頭がさえテンションが上がっていくタイプです。
アルコールパッチテストという方法で、自分がどっちの体質かを知ることができます。国内外の調査で、多く飲めば飲む程、200種以上の病気が増え、アルコール依存症にもなりやすい。顔が赤くなるタイプの人は、ノドなどのガンが多くなるという調査があります。お酒を減らすほど、死亡率が低くなるということが分かっています。

認知症とも関係が深く、フランスの研究では、慢性的なアルコール有害使用は、認知症の発症を3.3倍に高め、特に65才以下の早期認知症がでは、半分以上がアルコール依存症関連でした。日本では、40才から69才までの一般住民を調べた研究で、1週間の合計が150g以上の男性が、週に1,2回の休肝日を作ると、がんや脳血管疾患などの死亡率が低いことが分かりました。少なくすれば、健康の害を減らすことができます。

お酒が増え、ある線を超えてしまうと、戻れなくなります。コントロールを失って、飲酒が生活のすべてを塗りつぶしてしまう状態になります。アルコール依存症です。一線を越えないために気をつけたいものです。

では、どうやってコントロールしたら良いでしょう?

アルコールの量を計算する

ダイエットをする時は、糖質のグラムやカロリーをチェックしますね。同じようにお酒を、グラム単位で計算して目安にします。
以下の図を参考にしてみてください。

厚労省は、第一次健康日本21において、男性では1日20g以下、女性と高齢者では10gを「節度ある適度な飲酒」と規定しています。これとは別に、休肝日を週に2日以上作ることも推奨しています。ビール500ml(ロング缶)1本なら20gです。

つまり、男性の場合、ビール500ml(ロング缶)1本以下を週に5日以下飲む人なら、ギリギリ「害の少ない飲酒」ですこれが、男性の健康的な飲酒の限度かもしれません。きびしいなあと思われたかもしれません。
(ただし、厚労省の基準(健康日本21)では、一日にビール1000ml(女性と高齢者は半分)でも、ガンや高血圧、脳出血、心臓病、糖尿病など生活習慣病のリスクが高まると言われています。飲酒に関連する多くの健康問題の危険性は、1日平均飲酒量とともにほぼ直線的に上昇するのです。約1036万人(日本人の10人に1人)が該当します。)
なお、あらゆる疾患の危険性が上昇する飲酒量は、1日当たりの純アルコール摂取量が男性44g以上、女性22g以上であり、「健康日本21(第二次)」で、「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」を、1日当たりの純アルコール摂取量が男性で40g以上、女性で20g以上と定義しています

アルコール依存症の治療

アルコール依存症の治療には2種類あります。原則は断酒ですが、減酒治療も広がっています。
以前は、アルコール依存症の治療といえば、断酒一択でした。
2020年3月に、飲酒量低減薬セリンクロ(ナルメフェン)が発売され、減酒治療という選択肢が増えました。
(ただし、セリンクロによる減酒治療が適用される方とされない方があり、医師の医学的見地のもとで判断されます。詳しくはこちらをご参照ください。)

糖尿病や家族や社会的な問題がある時は、断酒を目標にした方が良いでしょう。

減酒治療は、お酒を飲まない「休肝日」を設定するなどして、個々の患者のペースに合わせて目標を設定できるのが魅力です。

先ほど、「飲酒を止める、止めない」で悩んだ尊勝院宗性師の逸話をご紹介しましたが、現代では本人の「変わりたい」という気持ちがあれば、アルコール依存症は治療が可能です。

依存症になるのは本人の自己責任ではなくて、病気です治療で改善できます。自身や家族の飲酒による問題行動に気付いたら、かかりつけの心療内科、こころのクリニック、精神科に相談してください。

まとめ

飲酒は、ガン・高血圧・脳出血・心臓病・糖尿病など生活習慣病、認知症などのリスクを高めます。
理想的には、男性では1日平均20g、女性では平均14~10g以下の飲酒が目安になるとされています。上記の図を参考にしてください。
飲酒がある一定の量を超えると、脳の機能や構造が変わり、アルコール依存症となります。アルコール依存症は、飲酒が生活のすべてになってしまう恐ろしい病気です。
依存症になるのは本人の自己責任ではなくて、病気です治療で改善できます。自身や家族の飲酒による問題行動に気付いたら、かかりつけの病院か精神科に相談してください。

 

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<アルコール依存症についての記事はこちら>

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関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。