適応障害とは?原因や症状から診断方法、セルフチェックまで網羅的に解説
「適応障害になりやすい人ってどんな人?」
「どこからが適応障害なの?」
「適応障害の人との接し方は?」
など、適応障害について気になる方は多いんじゃないでしょうか。適応障害とは、ストレスが原因で心や体に不調があらわれる病気です。
日常生活において、誰もがストレスを感じる問題に直面することがありますが、同じシュチュエーションでも反応は人によってさまざま。
今回はこうした「ストレスへの反応」が強いことで引き起こされる、適応障害について説明していきます。自分が適応障害で気になっている方や周りの方が適応障害になっていて、接し方に戸惑われている方などの参考になればうれしいです。
適応障害とは?
適応障害とは、簡単に言うと「はっきりとしたストレスをきっかけに発症し、心や体に不調がおきている状態」であり、診断時点では「うつ病など他の心の病気とまでは診断でないレベルまたは短期の心身の不調」という状態のことを言います。
一見、分かりやすいようで、「これがあれば適応障害だ!」という特有の症状がないので、逆に分かりにくくなり、混乱が起きることがあります。
ストレスの受け方は、一人一人違い、個人差が大きいため、環境が変わったり、時間が経つうちに自然に治ることもあります。その反面もともと他の病気が潜んでいて、ストレスをきっかけに表面化したのかもしれません。
時間がたち自然に治れば良いですが、薬だけの治療で治らない時には「なぜ、このタイミングで、適応障害になったのか?」を考え対策しなければいけません。環境を変えたり、考え方を見直したりすることが必要になります。
失恋、第一希望の学校に不合格だった、進学や就職、異動、結婚、離婚など、環境の変化で、大きなストレスが生じて、本人のキャパシティを超えた時に発症します。
発症するとうつ状態や不安状態、体の不調などが生じます。あくまで「他の精神科の病気とは診断できない状態」いうのが診断のルールです。私たちは誰もが適応障害を経験しています。うつ病と似ている場合は、「抑うつ状態を伴う適応障害」と診断されます。
実際には、この判別が難しいこともあります。
ICD-10(国際疾病分類第10版)の診断基準では、きっかけとなるストレスから3ヶ月以内に発症し、原因となるストレスがなくなれば6ヶ月以内に回復するとされています。しかし、ストレス環境が続く場合には、長く続くこともありますが、2年を超えないとされています。
適応障害の症状は大きく分けて3つある?
適応障害の症状は人によって様々ですが、精神症状、身体症状、行動にあらわれる症状の3つに分けられます。
精神症状は、抑うつ症状と不安症状があらわれやすく、憂うつ、喪失感や絶望感、意欲の低下、焦りや緊張、神経過敏、涙もろくなるなど、感情のコントロールが難しくなります。
身体症状は、不眠、食欲不振、めまい、動悸、吐き気、頭痛、肩こり、腹痛、倦怠感や疲労感など、人によってさまざまな不調を訴えます。
こうした症状だけに注目するなら、「この症状があれば適応障害だ」という特有なものは見られませんが、うつ病にもとてもよく似ています。
また、人によってはストレスが心に影響をおよぼし、自暴自棄になり飲酒や暴食がいきすぎてしまったり、学校や仕事を無断欠席してしまったり、危険な運転やけんかなど攻撃的な行動に出てしまう場合もあります。
適応障害の精神症状 |
|
適応障害の身体症状 |
|
適応障害の行動の変化 |
|
関連記事:適応障害の症状とは?具体的な身体症状、精神症状を解説
適応障害には、明確なストレス原因がある
適応障害の症状はうつ病と似ていますが、ストレスとは関係なく発症することがあるうつ病とはちがい、適応障害は特定の出来事によるストレスがきっかけで発症するため、原因の特定は難しくありません。
そして適応障害のもう一つの特徴は、発症の原因となったストレスから離れると、多くの場合、症状がおさまることです。例えば、会社の業務になじめず適応障害を発症した人が、部署を異動したら改善したといったことがよくあります。
また、職場では憂うつ状態なのに、プライベートではそれが嘘のようになる人も中にはいます。それとは逆にうつ病の場合は、ストレスから離れていても症状は続きます。
そのため適応障害は、原因となるストレスを適切に対処しない限り、症状が悪化したり長引くこともあるので注意が必要です。
適応障害になりやすい人はどんな人?
適応障害は、真面目で責任感が強く、物事を神経質にとらえがちな人がなりやすい傾向にあります。
例えば、人から言われた冗談を間に受けて悩んでしまったり、もともと心配性の人がちょっとしたことで傷ついてしまうなどです。気持ちの切り替えが苦手で悩みを一人で抱え込んでしまう人は、心身のストレス反応が出やすいです。また、人の目や評価が気になるなど、対人的関係が苦手な人もあてはまります。
同じ職場のAさんは元気に働いてるのに、隣の席のBさんはひどいストレスを受けて適応障害で苦しんでいると言うケースもあります。同じ環境下でストレスを受けていても、適応障害になる人とならない人もいます。
ストレスがあまりに強いと、個人のストレス耐性がどうであれ適応障害を発症する可能性はあります。ただしストレスへの耐性が強くない人ほど発症しやすいのもまた事実です。
大きな挫折やトラブルをあまり経験したことがない人も、ストレスに直面した時に乗り越えられず、適応障害になる人も少なくありません。適応障害になりやすい人については、以下の記事でも詳しく解説しています。合わせて読んでいただけると理解が深まるかと思います。
関連記事:適応障害になりやすい人ってどんな人?特徴やよくあるケースまでお伝え
適応障害とうつ病の違い
適応障害とうつ病は、主に発症の原因と、症状が続く期間が異なります。
適応障害は、明確なストレスが原因で発症することが特徴です。一方でうつ病は、ストレスとの関係は明確ではありません。
ストレスが引き金になるうつ病もありますが、ストレスを含め、きっかけらしいきっかけが見当たらずうつ病になる人もいらっしゃいます。
そのため適応障害は、環境に原因があるという考え方をします。そのため原因となったストレスから離れると、症状は治ります。しかし、うつ病の場合は、ストレスから離れても、すぐに良くなることはありません。
また、適応障害の症状は、あくまでうつ状態であってうつ病とは異なるのです。
うつ状態が続く期間も見分けるポイントのひとつで、うつ病と診断されるのは、うつ状態が数週間という長期にわたり継続する時です。そのため、適応障害のような一過性のうつ状態とうつ病は、はっきり区別されます。
詳しくはこちらの記事で解説しています。ぜひ合わせて読んでみてくださいね。
関連記事:適応障害とうつ病の違いとは?「原因」「ストレスから離れた時の症状」「期間」の3つのポイントで見分けよう
適応障害が仕事に与える影響
適応障害の症状が、仕事に与える影響は少なくありません。憂うつな気分や喪失感、焦り、緊張から、仕事への意欲が低下したり、仕事の効率や集中力が落ちてミスをすることがあります。
また、倦怠感、頭痛、腹痛などの体のつらい症状で仕事に行けない場合、職場に理解が浸透していなければ「甘えてる」「仮病なんじゃないか」などの目を向けられかねません。
自分自身も「甘えなんじゃないか」「もっと頑張らなきゃ」と自分を責めてしまうことで、より症状が悪化してしまうこともあります。
適応障害は甘えではなく病気です。ストレスの原因が仕事であった場合には、業務量の調整や異動を願いでることもひとつではありますが、症状を繰り返すようであれば、産業医やカウンセラーへの相談や、場合によっては専門医を受診することも大切です。
関連記事:適応障害が仕事に与える影響は?具体的な対処法や向いている仕事などを紹介
適応障害の診断基準は難しい
適応障害は、症状だけ見れば他のどんな病気とも似ています。適応障害と診断されるのはきっかけとなる明確なストレスがあり、うつ病を始めとする、他の精神疾患の診断基準を満たすほどではない場合です。
しかし、症状が一時的なもので自然に治り、「あのときはつらかったけれども、人生の教訓になった」と思える程度のこともある一方で、心療内科を受診するほどの状況なら、他の病気が隠れている場合があります。
適応障害の判断基準として、期間が一過性のものであるとありますが、症状が長く続かないのではなく、症状が2年以上続いた場合には、適応障害から別の病名に変わることもあるのです。
例えば、途中でうつ病になった場合、適応障害が悪化したというよりは、もとのうつ病が表面化したと考えます。
そのため、症状の時間的な変化を見ないと、初期症状だけを見てすぐに治る適応障害なのか、うつ病などの他の病気なのか区別がつかないことも多いのです。
適応障害の治療方法は大きく分けて2つ
適応障害の治療には、環境調整と本人のストレス対処能力の向上の大きく2つがあります。
環境調整
環境調整とは、原因となるストレスを減らすために、職場や家庭など、本人のおかれる環境を調整することです。
例えば、仕事が原因であれば業務量や業務内容の調整、勤務時間の調整や異動など、場合によっては休職や転職が必要なこともあります。また、家庭内でのストレスが原因であれば、子育てや家事、介護など、役割の調整などがあります。
しかし、すぐにストレスを取り除くことができない場合もあるため、環境調整とあわせてストレス対処能力を向上させていくことも重要です。
ストレス対処能力の向上
ストレス対処能力の向上には、問題解決療法と認知行動療法があります。
問題解決療法
問題解決療法は、日常生活の中で困る問題に向き合い、解決方法のプロセスに取り組むことで、現実に対処する力を身につけることを目指します。
認知行動療法
認知行動療法は、自分の考え方のクセを知り、物事の捉え方を広げることで、ストレス耐性を上げることができます。その場しのぎのような対処の仕方ではなく、自分自身を理解し、ストレスの対象方、ストレスとの付き合い方を身に付けることができます。
認知行動療法についてはこちらの記事でも解説しています。気になった方はぜひ読んでみてください。
関連記事:認知行動療法とは?
適応障害の場合、薬物療法は症状に応じて抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などが使用されることがありますが、あくまでも対症療法です。
適応障害は以下の項目をそれぞれ把握して、迷路の出口を見つけていくことが大切です。
- どんな環境、きっかけがその人のストレスになっているのか
- そのストレスにどのように対処しているのか?
- 周りのサポートはどうなっているのか?
- 悪循環になっていないか?
適応障害の人への接し方
適応障害の人の多くは真面目な性格から「迷惑をかけたくない」など、悩みを誰にも相談できずに抱え込んでしまっているケースがあります。
そのため、身近な人の「気づき」や「理解」が重要になります。
- 仕事の能率が落ちる
- 遅刻や欠勤が増える
- 一人でいたがる
- 身だしなみに気をつかわなくなる
- ぼんやりしていることが多い
- 笑顔がなくなった
- すぐに怒るようになった
- 食欲不振
- 腹痛や嘔吐
など心や体の不調が見られる場合には注意が必要です。
こうした変化に対して、「気持ちの問題」や「甘えるんじゃない」といった言葉は、本人を傷つけることがあります。また、逆に「元気を出して頑張って」という激励は、本人をさらに追い詰めることがあります。
適応障害はストレスが原因で引き起こされるため、過剰な配慮や励ましよりも、ストレスを減らす環境の調整や、本人に適した環境づくりのための周囲の理解やサポートが必要です。
適応障害の人との接し方については以下の記事で詳しくご紹介しています。合わせてこちらもご確認ください。
関連記事:身近な人が適応障害になった時の接し方とは?かけてはいけない言葉や周りの人ができることも紹介
まとめ
ここまで、適応障害について症状や原因、治療法などを説明してきました。
適応障害は、社会生活を送る中で受けるストレスに適応できない場合に発症し、精神面、身体面に不調をきたす病気です。
適応障害の治療方法は、原因が明確にストレスであるため、ストレスを減らすための環境の調整が最も重要です。
すぐにストレスを取り除ける場合はいいですが、すぐに環境を変えられないことも多くあります。そのため、環境調整とあわせて、問題解決療法や認知行動療法など、本人のストレス対処能力の向上も必要です。
症状が続く場合には、他の精神疾患が隠れていたり併発している場合もあるため、ひとりで抱え込まずに早期に専門医を受診してみてくださいね
当院あらたまこころのクリニックでは適応障害の方も多くいらっしゃいます。もし、お困りでしたらぜひ当院にもいらしてみてください。
関連ページ:適応障害についてのよくある質問
関連記事:適応障害は何科に行くのがいいの?精神科や心療内科の違いと病院へ行くタイミングなどをご紹介
関連する情報
監修
-
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
最新の投稿
- 働く人の発達障害2023年12月2日大人のADHD
- その他2023年10月27日孤独感は解消できる?孤独で不安を感じる原因から対処法まで解説
- 社交不安障害(あがり症)2023年10月27日対人恐怖症は治る?原因から症状、治療法を解説
- パニック障害2023年10月27日パニック障害と嘔吐恐怖について② 治療