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大人の発達障害 ADHD治療薬はどれを使えばいいの?不注意型ADHDの場合

大人の発達障害 ADHD治療薬はどれを使えばいいの?不注意型ADHDの場合

【目次】
手順①:お話を聞く
手順②:ADHDと分かったら、不注意のタイプを分類する
手順③:処方
おわりに

はじめに

 あらたまこころのクリニックには、大人の発達障害の患者さんが来られます。「発達障害かどうか知りたい」とおっしゃられる方もいます。

お話を聞いていると毎度の失敗に対人関係トラブルのお話がチラホラ。さらに詳しく聞いていくと抑うつや不安といった二次障害の存在も明らかになります。

 今回は、そんな大人の発達障害の患者さんの中でも、不注意型のADHDの患者さんに対する薬物療法について、“困りごとの聴取→ADHDのタイプ分け→複数あるお薬の選択”までの流れを説明しながらお伝えしようと思います。薬価も高く少し特殊なお薬です。患者様の中には、「自分はどんな薬を飲むのか」と不安になる方も多いとも思いますので、ADHDの薬について、あらたまこころのクリニックで考えている薬物療法についてご説明します。患者様の不安が少しでも軽くなれば幸いです。

手順①:お話を聞く

「発達障害かもしれない」と来院される方の困りごとは様々です。

  • 時間マネジメントができない・うっかりミス
  • 思い込み、聴き間違いが多い
  • 指示通りできない、同じミスを繰り返す
  • 人間関係が上手くいかない
  • 整理整頓ができない
  • 気配りのし過ぎやオーバーワークで疲弊

一見、ADHDに見えることもあるが…

 一見、ADHDに見える不適応行動がADHD由来とは限らないので、安易にADHD治療薬を処方することはできません。例えば、視野の狭さが「衝動的に反応」した結果ならADHDですが、「細部にひどくこだわる」ようなら自閉スペクトラム症(ASD)の認知特性になります。

なので、しっかりとお話を聞き、ADHDなのか、自閉スペクトラム症(ASD)なのか、ADHDとASDの両方が併存しているのか、他の精神疾患なのか、重ね着症候群、カモフラージュなどを見分けていく必要があります。

お話を聞く際のポイント

その際には、“どんな状況”で“何がきっかけ”で“似た行動は他にどんな時に起きているか”を聞いていくことが大切です。

そうすることで、困り行動の法則性/流れが理解でき、症状の見分けや治療方針の策定に繋がります。

手順②:ADHDと分かったら、不注意のタイプを分類する

大人のADHDは不注意が問題になる。

 子どもの頃に問題になるのは多動/衝動性ですが、大人の時に問題になるのは不注意です。これは、社会において子供に求められることと、大人に求められることが違う事によって生じるのかもしれません。

 子どもの頃には不注意型のADHDは目立ちません。それは、子どもには“周りの大人ののいう事をよく聞いて、余計な事をしない”姿が求められるからです。不注意型の子どもはおとなしい子が多いので、子どもの頃には問題化しません。しかし、大人になり“主体的に考え行動すること”が求められるようになると、「指示待ち人間・自分で動けない・ミスが多い」、などと言われてしまうのです。なんだか理不尽な話です。

 逆に、子どもの頃、余計な事をしまくって不適応を起こしていた多動衝動型のADHDの方が、大人になって、「バイタリティ溢れる創意工夫の人」として活躍されることもあります。

なので、今回は大人の不注意型ADHDに絞ってお話を進めていきます。

ADHD治療薬の選択は「どんな」不注意かに注目する

 成人期ADHDでは、不注意症状が中心ですが、「どんな」不注意かで対応が変わります。

不注意4種

 不注意はその成り立ちから4つにわけることができます。

  1. 覚醒度の低さ
  2. 興味がないことに注意が払えない
  3. 多集中
  4. 過集中

です。それぞれ詳しく見ていきましょう。

①覚醒度の低さ

 覚醒度が低いため、注意集中や実行計画をつかさどる脳の部位が上手く働いていません。

そのため、ボーっとして、見落としが多く、何かを始めるのにも時間がかかります。

この場合、覚醒度を上げるコンサータを使用することがあります。

②興味がないことに注意が払えない

自閉スペクトラム症、ASDの特性として不注意が現れる場合です。興味を示すものがないため白昼夢にふけり、つい他のことを考えます。

 この場合、注意を向けることによるメリットを伝えて、本人の指向性を引き出します。

③多集中

 多くのことに注意が向き、一つのことに集中できません。

この場合、必要なものに集中できるようにするために、インチュニブが有効なこともあります。

性格が穏やかな方の場合はコンサータを使用する場合もありますが、イライラが強い場合はインチュニブもありです。インチュニブには、イライラや敏感さを穏やかにする効果もあります。

④過集中

 一つのことに集中しすぎて周りが見えない状態です。

この場合、視野を広げるためにアトモキセチン(ストラテラ)を使用します。

 

まとめると以下のようになります。

 

手順③:処方

 最後はお薬の処方です。ケースを見ていきながらイメージしてみましょう。

例①:家事ができない事が悩みの30代女性

「家事ができない」と訴えてこられた患者さんです。

どんな風で家事ができないのかを詳しく聞いていくと…、

掃除機を見たら掃除ばかり、洗濯物を見たら洗濯ばかり、同時進行で複数の家事をこなすことができず、全ての作業が終わるころには、すっかり夜遅くなってしまうことが分かりました。

この場合、過集中によって家事作業全体を俯瞰してみられないことが原因と考え、アトモキセチン(ストラテラ)を処方しました。

例②:仕事の納期が守れず、うっかりミスも多い30代男性

 仕事の様子を聞いていくと…

 穏やかで社交的。スイッチが入ると能力も高いのですが、基本的に考えてばかりでスタートが遅く、仕事がなかなか終わらずに、残業ばかりしていたことが分かりました。

この場合、覚醒度の低さによって、なかなか取り掛かるまでに行かないようです。そのため、エンジンがかかって目の前の処理が開始できるように、覚醒度を上げるコンサータを処方しました。

例③:イライラして仕事に集中できない20代男性

過去、ADHDと診断されコンサータを処方されました。

それにより、不注意は完全しましたが、イライラと感覚過敏がみられるようになりました。加えて、やることを一つに絞れず、ある作業をして、途中でまた別の作業をして…、といった具合にいろんなことに同時に手を出して、結果的に作業が遅くなっていました。

この場合、イライラと多集中がみられ、感情コントロールと注意集中の焦点づけのためにインチュニブを処方しました。

おわりに

 いかがでしたでしょうか?今回は、成人期の不注意型ADHD患者さんに対する治療薬の選び方についてみていきました。実際には一人ひとり違うので、先ほどの例のようにピタリとは行かないことが多いですが、この際に重要になるのは、患者さんのお話をしっかりと聞いて「どんな」不注意かを見分ける事です。この際、患者さんのご説明が治療の方針を決定づけるのです。これは治療者と患者さんの共同作業となります。

あらたまこころのクリニックでは、スタッフ一同、患者さんがお話をしやすいような雰囲気づくり/関係づくりに日々励みながら、治療を進めていきたいと思っております。

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。