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パニック障害が不安でお守り薬を手放せなくなっていませんか?

パニック障害が不安でお守り薬を手放せなくなっていませんか?

【目次】
パニック障害が不安でお守り薬を手放せなくなっていませんか?
お守り薬のメリット・デメリット
お守り薬を手放すことはできるのか!?
今回のまとめ

 パニック障害が不安で、お守り薬を持っていませんか?

 「薬に頼り切らない治療」についてお話をするときに、患者様からさまざまな質問を受けることがあります。

その中でも多いものが、「お守り代わりにお薬を常に持っているように言われたのですが、いけないのですか?」
「頓服(とんぷく)薬=困ったときだけに飲む薬)は、良くならないと聞いたのですが本当ですか?」といった質問です。

特にアルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)やエチゾラム(デパス)などが内科などで処方されています。あらたまこころのクリニックでは、お勧めしません。一時的には飲み心地が良いのですが、長期ではパニック障害の回復を妨げ悪化することもあります。

 その理由を、今回は 「お守り薬」について、解説していきます。

お守り薬とは?

 この記事では、外出先などでパニック発作が起きたら困るので、とっさに対処する安定剤、頓服薬(とんぷく)、つまり「お守り薬」とは”のことを指します。

 通常、お薬は朝食後や就寝前などの決まった時間に飲みますが、頓服は症状が悪いとき、または症状が悪くなりそうなときに飲むお薬です。

例えば、電車に乗るときにパニック発作が出る方は、電車に乗る前に頓服を使います。
苦手な状況にどうしても行かなければいけないときなど、一時しのぎとして処方されるのです。

 そのような場面が何時やってきても大丈夫なように、“お守り”として、頓服薬を持ち歩いている方もおられます。
「実際に、飲まないけれど、服のポケットに持っているだけで安心です」とおっしゃる患者さんも見えます。
その場合、お薬を持っていないと、どこかで不安を感じ、外出や人と会う時に、「薬をちゃんと持っているか?」と、確認しながら日々を暮らすことになります。
そうすると、“薬に頼らなくても良い”という自信(自己効力感)が、もてなくなります。実はこれは持ち歩く不自由さ以上にパニック障害の治療を妨げます。頓服に頼ると安全保障行動+薬理作用で、不安に向き合う力を削いでしまいますパニック障害の本質不安が、どんどん広がって「自分は、この先どうなってしまうのだろうか」と怖くなりコントロール感がなくなることです。この漠然とした不安状態に留まる人もいれば、パニック障害が進行してうつ病にまでなってしまう人もいます。あらたまこころのクリニックのパニック障害グループ治療の参加者では頓服薬を使う人はいません。本来、コントロール感を取り戻した人には必要のない薬だからです。

お守り薬のメリット・デメリット

お守り薬のメリット

 頓服薬には、メリット・デメリットがあると考えられます。まずメリットとしては、
①苦手な場所や状況へ立ち向う前の、不安・つらい気持ちを和らげることができる
②症状を和らげることができる
③「いざとなれば薬がある」という持っているだけで安心感がある
などが考えられます。

 お守り薬の具体的な使用例

 パニック障害の患者さんでは、毎日強い発作に襲われていて、出勤すらできない状態で治療に来られる方がいます。そんな時は、頓服薬を処方して発作をやわらげる必要があるでしょう。面接初期には、お薬を使って強い症状を和らげることは必要です。

 ほかには、飛行機に乗ると発作が出てしまうが、出張でどうしても乗らなければならないといった状況。頓服薬を服用しなんとかその出張を乗り切る方もおられます。

また「お薬を持っている」という安心感で、苦手な電車や飛行機になんとか乗っている方もおられるでしょう。

つまり、治療初期や一時的な措置として、利用することは有効でしょう。

 お守り薬のデメリット

 一方で、お守り薬は、根本的な治療の妨げになります。

お守り薬の安心感があるから、苦手な状況にいくことができるかもしれませんが

お守り薬の安心感=お薬が無くなる不安

とも言い換えることができます。

 また、一時的に安心感を得て苦手な状況へ行くことができた方も、「お薬があれば行けるのだけれども…」とどこか治療が進んでいない印象を持たれる方もいらっしゃいます。

お守り薬を手放すことはできるのか!?

 あらたまこころのクリニックを受診される患者様の中には「頓服薬を止めたい」「お薬なしでも生活できるようになりたい」と希望される方がいらっしゃいます。

 そのような場合には、是非、医師に相談ください。
取り組むことができると判断されれば、治療教育、カウンセリング、認知行動療法などでお薬に頼り切らずに自分で対処する方法を身に付けるサポートをさせていただきます。
(※病気の種類や生活状況などによっては難しい場合がございます)

 あらたまこころのクリニックでも一生懸命サポートさせて頂きますが、もう一つ重要なのは、患者様の「お守り薬を止めたい」という気持ちです。
 お守り薬から得られる一瞬の短期的な安心感とそのあとに来る不安は非常に強いものがあります。それ故に、一度、お守り薬の服用が癖になると、なかなかやめることが出来なくなります。その止め難さはお酒のそれに例えられるほどです。

 上の図をご覧ください。お守り薬が癖になってしまった患者様に起こっていることをグラフにしたものです。
お守り薬は、即効性が求められるので、「短時間作用型」と呼ばれる抗不安薬が処方されます。ソラナックス、コンスタン(アルプラゾラム)やデパス(エチゾラム)などです。

しかし、この即効性が問題で、服用直後は一気に不安が低減しますが、作用期間が短く、しばらくすると反動で離脱症状が起こり、また不安になってしまいます。
そして、その不安を減らすために、またお守り薬を飲み…。
といった形で、本来、不安を強く感じる直前や直後に飲むだけであったお守り薬が、「お守り薬を飲んだことによって生じた不安を和らげるために、お守り薬を飲む」という状況に変化してしまします。
 そして、お守り薬を手放せなくなってしまいます依存の形成です。

 このようなことにならないためにも、お守り薬の使い方は、医師の指導の下で適切に行われる必要があります。
また、このようなお守り薬の特性から、お守り薬を手放すためには、ご本人の意思と専門家のサポートの両方で慎重に行われる必要があることがわかると思います。
 お守り薬についてお困りの方は、医療機関でご相談いただくことを強くおすすめします。

なお、あらたまこころのクリニックの院長、加藤正は抗不安薬などの依存を防止する啓蒙活動を行い、名古屋市医師会において、患者様が薬を手放すための医師向け講演や論文執筆を行なっています。

今回のまとめ

 みなさんいかがでしょうか?今回はパニック障害の例を使いつつ、“お守り薬(頓服)”について解説しました。頓服薬の使用にはメリット・デメリットがあるため、医師と相談し、短期的な一時しのぎではなく長期的に見据えた治療をして頂くことを願っています。“お守り薬(頓服)”についてお悩みの方は、医療機関へご相談ください。

 

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市からアルコール依存症専門医療機関、日本精神神経学会から専門医のための研修施設などに指定されている。