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パニック障害のケースで学ぶ!薬に頼り切らない治療。

パニック障害のケースで学ぶ!薬に頼り切らない治療。

  【目次】
パニック障害と診断されるまで
パニック障害に対する“薬に頼り切らない治療”の実践
治療のその後
今回のまとめ

はじめに

 あらたまこころのクリニックは“薬に頼り切らない治療”のメリットを活用したいと考え、日々診療を行っています。

パニック障害に対しても“薬に頼り切らない治療”を実践していることは前回お伝えいたしました
患者様の中には“もっと具体的にイメージがしたい”と思われる方もいらっしゃると思います。

 そこで、今回は架空のパニック障害のケースを用いて、さらに具体的に“薬に頼り切らない治療”について、解説していきます。

パニック障害と診断されるまで

架空ケースのAさんは、ある日仕事帰りの地下鉄で息苦しさとドキドキ、冷や汗に襲われました。

 “このまま倒れるのではないか?”と恐怖になり、急いで次の駅で下車しました。
その日は何とか帰宅しましたが、後日、自宅で急に息苦しさ、冷や汗、過呼吸、ふらつき感に襲われました。

 家族に頼み、救急車を呼び、救急搬送されました。しかし、どのような検査をしても異常は認められませんでした。
電車や家で“また発作が起こるのではないか?”と不安に思うことが多くなり、それに伴いドキドキや息苦しさなどの症状が出現する頻度も増え、とうとう仕事を休むようになってしまいました。
 病院の先生の紹介で、心療内科へ受診し、はじめてパニック発作という症状を知りました。
この時点で、Aさんは電車どころか、バスへの乗車、1人での運転、自宅に1人でいることができなくなっていました。

 治療手段として、お薬による治療や心理療法があることを医師からの説明で知ったAさんは、両方の治療を併用して治療していくことにしました。

パニック障害に対する“薬に頼り切らない治療”の実践

 医師と相談し、パニック発作や予期不安(“また発作が起こるのではないか?”)に有効なお薬を継続的に服薬するようになりました。
同時に、心理療法として、パニック障害が維持しているメカニズムを整理する面接が開始されました。

 その中で“逃げられない状況”“胸がどきどきする感覚”“助けてもらえない状況”“暑さ”が苦手であるかもしれないという仮説が立ちました。
そして不安が生じた際には、すぐに電車やバスを降りる、なるべく一人の状況を作らないようにする、常に水やガムを持ち歩く、頭の中で“落ち着け”と言い聞かせるなどの対処を行っていることも見つかりました。
 これらの対処でうまくいっている側面もありますが、一方で支障になっていることもわかりました(自由に自分の行きたい場所へ行くことができない、自宅でやりたいことができない等)。

Aさんの症状アセスメント

 そこでAさんは、
①このような状況で生じる不安と付き合う訓練、
②実際に発作が生じたときの対処、
③そして支障が生じている状況に少しずつ行けるようになるための訓練
を専門スタッフのサポートのもと自主的に行っていきました。

 最初は発作と向き合うことがとても怖かったAさんですが、徐々にバスや電車へ少しずつ乗れるようになりました。
バスや電車に乗れるようになり、発作への対処に自信がついてきたAさんは、医師と相談し、少しずつお薬を減らして行きました。
そして、お薬が少ない状態でも、バスや電車に乗れることを経験していきました。

これらは認知行動療法と呼ばれるものです。
発作の感覚や発作が起こる状況に少しずつ、慣らしていくことで、不安を小さくして、“発作が起こりにくくなること”“発作が起こっても自分で対処できる自信をつけること”を目指します。
そうしていくうちに、お薬なしで日常生活を送れるようになっていきます。

この治療で不安が小さくなっていく理由は、以下の公式で説明ができます。

 パニック障害の正しい知識を得て、その対処方法を学ぶことで、見通しが立つようになり、恐怖は小さくなります。
また、不安になる場所に出向き、自然と不安が収まる体験を繰り返すことでも恐怖は小さくなります。
適切なサポートを受けたり、自分で不安に立ち向かうことが出来た経験(=事故効力感)が大きくなると、分母が大きくなり、不安は小さくなります。

治療のその後

 Aさんは、専門スタッフのサポートのもと自主的にも治療に励み、電車やバスへ乗り自由にでかけられるようになりました。自宅でも一人で過ごすことができるようになりました。今までは、“また発作が起こるのではないか?”と警戒する日々でしたが、発作のことを忘れて、自然と電車に乗っていることが多くなりました。

 ふとしたときに、パニック発作を予期させる “胸のドキドキ”といった感覚が生じても、落ち着いて対応できるようになりました。
お薬による治療も、一番少ない量にまで減らすことができ、あとは断薬に向けて計画を立てている状態となりました。

今回のまとめ

 みなさんいかがでしょうか?今回はパニック障害に対する“薬に頼り切らない治療”について、架空のケースを用いて解説しました。断薬するには、認知行動療法をしっかり身につけ、自分の力でなんとかできる力(自己効力感)を高めておくとうまくいきます。

 実際には、お一人お一人のお困りごとに耳を傾け、オーダーメードな治療をしていくことが重要です。少しでも当てはまると感じた方は、まずは医師にご相談いただくことをおすすめします。

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市からアルコール依存症専門医療機関、日本精神神経学会から専門医のための研修施設などに指定されている。