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公開日: |更新日: 薬物療法

Evidence Based Psychiatry研究会に参加しました

【目次】
「Evidence Based Psychiatry研究会」とは?
内容
おわりに

「Evidence Based Psychiatry研究会」とは?

平成30年10月4日(木)19時15分から21時に、名鉄ニューグランドホテルで行われた「Evidence Based Psychiatry研究会」に参加しました。
この研究会は、名古屋市立大学に関わられている先生方が中心となって行われています。名古屋市立大学の先生方には、地域の医療機関としてお世話になっているのはもちろんですが、それ以外にも、当院で勤務をしていただいたり、認知行動療法などのご指導をいただいたり、
● 抗うつ薬の適正利用についての研究(SUN☺ D)
● アプリを使った認知行動療法の研究(FLATT)
などの研究や
● 「うつ病患者様のご家族へのグループ相談プログラムへの効果」
などのプログラムに関わらせていただいたり、多くのご縁をいただいています。
今回、このようにご縁の深い先生方が研究会をされるということで、スタッフ数名で参加をさせていただいたのです。会場は、予定以上の参加者だったようで、満席になっていました。

<一般演題>
「人とのつながりでうつ病を治す対人関係療法」
(名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野 特任教授 近藤真前先生)
(座長:豊川市民病院精神科 部長 佐川竜一先生)
<特別演題>
「抗うつ剤のネットワークメタアナリシスと個人データメタアナリシス」
(京都大学医学部健康要因学講座 健康増進・行動学分野 教授 古川壽亮先生)
(座長:名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野 教授 明智龍男先生)

一般演題の座長の佐川先生と、ご講演くださった近藤先生は、以前、当院で勤務をしていただいていた先生です。
また、特別講演でご講演いただいた古川先生には、当院のスタッフへ認知行動療法についての指導をいただきました。さらに、古川先生が中心となって行われた、研究(SUN☺D・FLATT)には、当院も参加をさせていただき、多くの患者様にご協力いただきました。

内容

①「人とのつながりでうつ病を治す対人関係療法」(近藤真前先生)

近藤先生のお話では、対人関係療法の全体像について分かりやすく教えていただきました。
対人関係療法は、エビデンス(科学的根拠)に基づいた精神療法の一つで、対人関係に焦点を当てていく治療です。効果的な精神療法のエッセンスを抽出するところから始まった精神療法で、これまで丁寧に研究が積み重ねられている治療ですが、まだまだ日本では広まっておらず、対人関係療法が受けられる医療機関はまだ少ないのが現状です。
講演では、対人関係療法の歴史や、治療の構造などについてお話があり、最後に症例の紹介もありました。うつ病の発症と関連のある4つの対人関係の領域(悲哀、不和、変化、対人関係の欠如)と、それぞれの領域での治療の進め方についてのお話では、温かく無理のない治療で、なおかつ、きちんと体系化された治療なので、患者さんも治療者も安心して進められるとてもいい治療だと、改めて感じました。

②「抗うつ剤のネットワークメタアナリシスと個人データメタアナリシス」(古川壽亮先生)

古川先生のご講演では、どのようにして効果的な治療を患者様に提供できるかということについてお話がありました。古川先生ご自身が、先進的で画期的な研究をされているので、そのようなお話が直接うかがえるだけでもとても貴重なことです。
お話の中には、複数の研究から得られたデータを統合する「メタアナリシス」についてや、当院も研究に関わらせていただいた、抗うつ薬の臨床試験で世界3番目の規模であるSUN☺D(抗うつ薬の適正使用についての研究)の結果についてのお話があり、薬の有効性と限界について、きちんと実証されたデータを見せていただきました。これまで軽症(軽度)のうつ病には効果が少ないと思われていた薬物療法ですが、「軽症(軽度)のうつ病でも薬物療法が有効である」といった研究結果もご紹介いただきました。また、治療を行っていて感じている感覚と、実際の薬物療法の効果にギャップがあることにも驚きました。
そして最後には、客観的なデータをもとに、一人ひとりの患者さんの特性に合った治療の選択肢を分かりやすく提示し、最適な治療法を選んでいける、そして、一人ひとりの治療がまた次の医療のベースとなっていくような医療システムの確立といった、今後の医療のあり方についてもお話いただきました。

おわりに

今回のご講演では、最新の、そして実証データに基づいたお話を聞くことができ、非常に勉強になり、有意義な時間となりました。
特に、薬の有効性と限界については、教えていただいたことを活かしながら、ますます、精神療法にも力を入れていかなければいけないと感じました。そして、治療初期の取り組みが重要と改めて思いました。当院では、治療の初期に、薬物療法と並行して「こころの整理面接」という、スタッフとの面接を行っていますが、こうした取り組みは、やはり大切なのだと感じています。

今回の研究会では、より効果的な医療を患者様に提供するためのヒントをいただきました。また、当院の治療についてもブログやホームページに載せていきます。

●  SUN☺Dに関しまして、論文はこちら

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。