認知症とは?症状から種類、治療法まで網羅的にご紹介
「最近もの忘れが増えたけど、これって認知症?」
このような不安をご自身や家族に感じた経験はないでしょうか。いざ認知症が身近になると、実はあまり認知症について分かっていないことに気づく人も少なくありません。認知症高齢者は増加傾向にあり、ご自身や家族もいつ認知症になるかわからないため、認知症についてより理解を深めておくことは大切です。
今回の記事では、認知症の種類や症状、治療法から予防法まで、認知症について網羅的に解説していきます。
認知症とは
認知症とは、脳の病気や加齢などによって脳の機能が低下し、もの忘れや判断力が衰えるなどの症状があらわれ日常生活に支障が出る状態をいいます。「認知症」は特定の病名と思われがちですが、病気によって引き起こされる症状の総称を意味しており、病名ではありません。
認知症を引き起こす病気の種類や症状は様々で、重さや困りごとも一人一人異なります。60才の罹患率は約1%ですが、加齢とともに罹患率は急増し、85歳では約27%に達します。
2025年には、65才以上の5人に1人が認知症になると言われており、誰でもがなりうる身近な問題です。認知症になっても、本人や家族が希望を持って日常生活を過ごせるよう、認知症を正しく理解することが大切です。
認知症の4つの種類とその特徴
認知症はさまざまな種類がありますが、代表的なものは以下の4つです。それぞれの原因や特徴を紹介します。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多いのが、アルツハイマー型認知症です。アミロイドβと呼ばれるたんぱく質の蓄積と、神経原線維変化があらわれ、脳の神経細胞が徐々に減っていく病気です。記憶に関係する海馬を中心に脳の萎縮が見られ、もの忘れから始まりゆっくり進行していきます。
血管性認知症
次いで多いのが血管性認知症で、脳梗塞、脳出血など、脳血管障害が原因で起こります。脳の障害の部分によって症状は異なりますが、もの忘れや言語障害などがあらわれやすく、人によっては歩行障害もあらわれます。血管性認知症は一部の認知機能は保たれているため、症状がまだらにあらわれることが特徴です。脳卒中を繰り返すごとに、段階的に症状が進行していきます。
レビー小体型認知症
レビー小体という物質が脳に溜まることで、脳神経細胞に障害が起き、認知機能や運動機能を低下させる病気です。初期には、存在しないものがあたかも存在するかのように見える幻視や、身体が自由に動かしづらくなるパーキンソン症状があらわれます。レビー小体型認知症は、調子の良い時と悪い時をくりかえしながら進行していきます。
前頭側頭型認知症
前頭葉と側頭葉が萎縮し、前頭葉と側頭葉を中心とした脳神経細胞に障害が起きる病気です。前頭側頭型認知症の症状ではもの忘れはほとんど見られず、同じ行動の繰り返しや、性格の変化、感情の抑制が効かなくなるなど、他の認知症にはみられにくい特徴があります。行動や言動の障害がゆるやかに進行し、経過とともに症状も変化します。
「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い
脳も加齢とともに老化するため、記憶力や判断力が衰えるのは自然なことです。「人の名前が出てこない」「昨日の朝ごはんが思い出せない」といったもの忘れも、一部を忘れているだけでヒントがあれば思い出すことができます。
加齢によるもの忘れは、本人に自覚があり、日常生活に支障をきたしません。一方で認知症によるもの忘れは、朝ごはんを食べたこと自体も忘れるなど、出来事全体が抜け落ち、ヒントがあっても思い出すことができません。本人に自覚はなく、日常生活に支障をきたし症状は進行していきます。
認知症の症状
認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状」に分けられます。中核症状は、認知症であれば必ずあらわれる症状ですが、行動・心理症状は個人差があり、必ずあらわれるわけではありません。それぞれ代表的な症状の例を紹介します。
1.中核症状
中核症状は、脳の神経細胞が壊れることによって、直接起こる症状です。「もの忘れ」といった記憶障害だけでなく、理解力や判断力の低下、今まで当たり前にできていたことができなくなるなど、症状はさまざまです。中核症状が起きると、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
<中核症状の例>
- 記憶障害:新しい出来事を覚えられず、以前の記憶もだんだんと抜け落ちていく
- 見当識障害:現在の年月日や時間、場所、人との関係性が分からなくなる
- 理解・判断力の低下:情報処理のスピードが低下し、二つ以上のことが重なると混乱し対応できなくなる
- 失語:言葉がうまく使えなくなる
- 失認:ものの見分けが難しくなる
- 失行:服の着方や箸の使い方など、当たり前にできていたことが分からなくなる
- 実行機能障害:物事を計画立てて、段取りよく進めることができなくなる
2.行動・心理症状
行動・心理症状は、周辺症状とも言われており、中核症状や環境によって引き起こされる二次的な症状です。本人の性格や環境、心理状態などが絡まりあうため、症状のあらわれ方も人それぞれです。
行動・心理症状の背景には本人なりの理由があるため、本人に寄り添った対応をすることが大切です。
<行動・心理症状の例>
- 抑うつ:気分の落ち込みや意欲の低下、何もしたくなくなる
- 徘徊:目的もなく絶えず歩き回る
- 妄想:物を置き忘れた自覚がなく、盗まれたなどと言う「もの盗られ妄想」など
- 幻覚:実際にないものが見えたり聞いたりする
- 暴言・暴力:もどかしさや不安から、大声を上げたり暴力をふるう
- 介護拒否:入浴や着替え、トイレなどの介助を嫌がる
- 異食:食べ物ではないものでも口にする
- 睡眠障害:夜眠れなくなるなったり昼夜が逆転するなど
認知症の治療法
認知症は、種類によって根本的な治療が可能な場合がありますが、アルツハイマー型認知症などの一般的な認知症に対する根本的な治療法は、まだ見つかっていません。そのため、できるだけ認知症の進行をゆるやかにし、症状を軽くすることが治療の目的となります。
認知症の治療には、薬を使う治療法(薬物療法)と、リハビリテーションなどの薬を使わない治療法(非薬物療法)があります。高齢者の場合、いくつかの病気によってたくさんの薬を飲む「多剤服用」が、認知症の症状を悪化させているケースもあるため、認知症治療においては、まず最初に処方薬のチェックを行うことが大切です。
認知症は何科に行けばいいの?
認知症は、いくつかの診療科で診察することができます。脳神経外科、神経内科、精神科、老年病科など多数あり、それぞれの専門性を生かして診療しています。
どこに行くべきか迷う場合は、まずはかかりつけ医師に相談してみるのも良いでしょう。認知症は、早い段階で正しい治療やケアをすることが、症状の改善や進行を遅らせるために非常に重要です。
認知症は高齢者だけのものではない?若年性認知症とは
認知症は高齢者だけのものではありません。若くても認知症を発症することがあり、65歳未満で発症した認知症を若年性認知症といいます。高齢者でも若年者でも医学的には大きな違いはなく、働き盛りの世代で発症し社会的な影響が大きいため、「若年性認知症」として区別されています。
若年性認知症でもアルツハイマー型認知症が最も多く、約半数を占めています。2020年3月の日本医療研究開発機構認知症研究開発事業の調査結果では、若年性認知症者数は3.57万人と推計されています。
認知症にならないための予防法
認知症は、生活習慣から引き起こされる病気との関連が強いため、日常生活の見直しをすることで、ある程度予防することができます。適度な運動や、塩分や動物性脂肪を控えたバランスのよい食事を心がけましょう。肥満や高血圧を防ぎ、脳の健康を維持することができます。喫煙や大量飲酒は、認知症のリスクが高まるため控えましょう。
これらは認知症に関わらず、健康な生活を送るために大切な習慣です。できることから少しずつ取り入れていくことが大切です。また、脳のトレーニングは脳を活性化させ、脳機能の低下を防ぐことができます。計算力、記憶力、判断力、注意力など、苦手になってきている認知機能を知り、計算やパズル、間違い探しなど、自分に適した脳トレーニングを継続することで、認知症を予防することができます。
軽度認知障害(MCI)の早期発見からの対応が重要
認知症の一歩手前の状態を、軽度認知障害(MCI)といいます。もの忘れなどの認知機能の低下がみられますが、日常生活に支障が出るほどではなく、認知症とは診断できない状態です。しかし、軽度認知障害(MCI)約半数の方が、5年以内に認知症に移行すると言われています。
できるだけ早期に発見し、早い段階から適切な対策をとることができれば、認知症への進行を防ぐことができます。気になる症状が出始めたら、それを記録に残して追いかけていきましょう。早期発見や診断の際に有効な情報となります。
家族が認知症になったらどうすればいいの?
認知症になると、認知能力が低下しますが「何も分からない」というわけではありません。認知症になったことで、不安や症状に苦しんでいるのは誰よりも本人なのです。認知症が進むと、できないことが増えたり、ついさっきの出来事を覚えていなかったりますが、いちいち叱ったり指摘しないことが大切です。認知症を正しく理解し、あたたかく見守りながらサポートしていくことを心がけましょう。
認知症の進行については「認知症のレベル別一覧表」の記事で解説しています。もし家族の方が認知症になってしまった場合は記事内の表を参考にしてみてください。
まとめ
認知症とは、脳の病気や加齢などによって脳の機能が低下し、もの忘れや判断力が衰えるなどの症状があらわれ日常生活に支障が出る状態をいいます。認知症にはさまざまな種類があり、代表的なものは以下の4つです。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
認知症の症状は、脳神経の障害による「中核症状」と、中核症状や環境によって引き起こされる二次的な「行動・心理症状」に分けられ、それぞれに対応が異なります。
<中核症状の例>
記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、失語・失認・失行、実行機能障害など
<行動・心理症状の例>
抑うつ、徘徊、妄想、幻覚、暴言・暴力、介護拒否、異食、睡眠障害など
認知症は、できるだけ早期に発見し、早い段階から適切な対策をとることができれば、進行を遅らせることができます。気になる症状があれば、早めに専門医を受診することをおすすめします。
当院の院長である加藤正は、認知症サポート医として認知症初期集中支援チームに関わり、名古屋市瑞穂区地域包括支援センターと連携して、地域や家族の相談事業に携わっています。認知症について、お困りごとや不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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