あらたまこころのクリニック「症状別のよくある質問」ページ

症状別のよくある質問 DISEASE FAQ

適応障害

ADJUSTMENT DISORDER

適応障害とうつ病の違いを教えてください。

 うつ症状の「本来の適応障害」なら、ストレスが続かなければ適応障害=軽いうつと考えてもOKです。誰でもが経験する、失恋して「へこんでいる」「落ち込んでいる」状態が多いのです。ところが、診断の仕方が病気とは違うので、いろいろ混乱することがあります。他の精神科の病気は現れた症状で診断しますが、適応障害は、「ストレスに耐える力を超える出来事が起きたときに、心や体に不調が起きる病気」という原因に目を向けます。。心の中なんて目に見えない「原因」に目を向けるので、分かりづらいのです。ストレスの対象に直面しているときに不調が認められ、ストレスから離れているときは比較的落ち着いている傾向がはっきりしているということですが、同じ職場で同じ仕事をしていても、ストレスを強く感じる人も居れば、感じない人も居て個人差が大きいので分かりにくい。つまり、とても、曖昧で、しかも1つの病気ではない。いろんな病気や重症度がごっちゃになっています。しかも適応障害は、「他の精神科の病気と診断されるレベルまではない」というのが診断の作法になっています。適応障害は、他の病気と違った視点で診断するので、医師によって診断や治療法が異なることがあります。時間が経つうちにうつ病、不安障害、社交不安障害、パニック障害、発達障害など他の病名に変わることも多々あります。これらのことが、適応障害の治療が曖昧で分かりづらくなる要因です。

 ですから、ストレスがきっかけで、うつ、不安、動悸、吐き気、体の不調、不眠、イライラなどで社会生活に支障が出たら適応障害になるので、症状としては、何でも出てきます。「この症状があれば適応障害だ」という特徴的な症状はありませんので、症状だけ見れば、どんな病気とも似ていま。と言っても多いのは、うつ症状です。うつ病も、よくお話を聞くと何かきっかけがあることが多いので、確かに見分けは付きにくいです。診断基準では、適応障害=軽いうつのはずですが。

 一時的で自然に治る場合もあります多くはストレスがなくなれば6ヶ月以内に改善するとされていますが、ストレス環境が続く場合には、長く続くことがあります。うつ症状が2年以上続くようなら、うつ病か気分変調性障害という病名になります。その「気分変調症も増悪するとうつ病」になると、慢性うつの中にうつがある二重うつ病と言われます。これと適応障害とが、かぶり、混同されることがあります。

 また、診断書などでは、「うつ病」と診断書を書く際に、患者様が会社をクビになるような不利な立場で、患者様の置かれた状況に配慮しなる場合、「適応障害(うつ状態)と発行することある」と言う話も耳にしたこともあります。「便利」な病名としても広く使わることもあります。以前は、心因反応、自律神経失調症、心身症などの病名がよく使われ、今は、その代わりに適応障害使われている場合もあるようです。これはこれで、患者様の立場、治療に配慮すると言う点では大事なことだと思います。それで、しばらくして治れば、それで良いのですが、適応障害が治らない時には、適応障害の治療のためには、しっかり、見立てを立てて取り組まないと困ります。環境と奥にある「問題」「病気」を見つけ対処しないと問題解決にならず、悪循環になっていることもあるからです。適応障害は、多くは、一時的なもので自然に「治る」一方、心療内科を受診する状況なら、治療が必要なことが多いかもしれません。その場合、薬だけでは改善しないこともある。適応障害が治らないなあと思ったら、どんな環境で、どんなきっかけが、その人にストレスになって、どんな風に対処して、周りのサポートはどうなっているのか?悪循環になっているのか?をしっかり把握して、迷路の出口を見つけていくことが大事です。「適応障害が治らない」のではなく、奥の病気が、いくつも重なっていたり、悪循環になっていることが多いです。例えば、気分はうつで、「初め適応障害と診断されたのに、後からうつ病に診断が変わった、適応症が重くなったのか?」というは、「適応障害が悪化した」と言うよりも、元々、潜んでいたうつ病が表面化したと考えた方が治療的には役に立ちます何がうつ病を悪化させたのか?に気付き、その対応策を打つのです

 うつ病(大うつ病性障害)について触れておくと、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版))では、適応障害で認められる症状はうつ病の症状と似ていますが、うつ病は、好きなことも楽しめず、一日中気分の落ち込みがある状態が2週間以上と長く続きます。

 適応障害とうつ病の区別は、1つは、適応障害では病気原因となったきっかけはっきりしていることが特徴です。うつ病でもきっかけはありますが、適応障害は、よりはっきりしていて環境の方に原因があるという考え方です。状況依存性と言います。会社でつらい気分になるので休職したら、とたんに元気なる。復職するとまたつらいなる。また、うつ症状の程度も抑うつ症状の悲しい、憂うつ、イライラ、罪悪感、エネルギー(活力)がない、不眠、食欲の異常(低下または過食)、希死念慮など9つの項目の5つ以上が、朝から夜まで1日中、2週間以上あれば大うつ病性障害と診断されますが、4つ以下の場合やうつ症状がそこまでは続かない場合には、軽症うつ病、小うつ病と診断され、適応障害もここに入ります。抑うつ気分を伴う適応障害と診断されます。不安が目立つ適応障害もあります。不安を伴う適応障害です。パニック障害などが出てくることもあります。また、食欲不振や不眠などの生物的な症状(体)は、うつ病ほど出ないことがあります。では適応障害は軽い病気なのかと言うと、そうでもない場合もあります。大うつ病性障害になったり、実は発達障害、自閉スペクトラム症が隠れていたりすることもあります。自閉スペクトラム症の人は、変化が大きなストレスになります。ルチーンワークのように決まったことをこなすのは得意ですが、人事異動などで業務が新しくなると大混乱してパニックになることもあります。1人で帳簿を付ける仕事だったら得意だったのに、営業で多くの人と会ったりするような仕事になると大変です。あがり症、社交不安障害の人も、4月などで人事異動の際には悪化することがあります。一口に適応障害と言っても、実は様々な病気が関係しているのです。

とにかく見立てが肝心ですね。

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。