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公開日: |更新日: うつ病

日本の医学会で初、大うつ病性障害GL発表

日本初のガイドライン

7月26日、日本うつ病学会が、日本の医学会で初めて、「大うつ病性障害の治療ガイドライン」を発表しました。最新のエビデンスに基づき、現在の医療体制や日常臨床に即したGL(ガイドライン)です。今回このガイドラインを発表するに至ったのは、最近約10年間で新規抗うつ薬による新たな副作用が報告され,軽症の大うつ病性障害における治療薬の有効性をめぐる国際的な議論が起きるなど、各国のGLにも影響が及んいるため、同学会では,こうした議論を踏まえ、最新のエビデンスを盛り込み、なおかつ日本の医療体制や日常臨床に即したGLが必要であると判断されたためです。
このガイドライン発表は、日本初ということで、すばらしことだと思います。
しかし、2つの気がかりな点があります。

私が座長を務めた「尾張名古屋地区精神科フォーラム」で、ご講演頂いた山田 和夫 先生と、ガイドラインについてお話しする機会がありました。山田 和夫 先生は、うつ病学会などで理事やガイドラインの作成などを務められています。日本うつ病学会が東京で開催された時に、我が国の第一人者の先生がマスコミの取材を受けて、話されていた内容を、よこで聞いておられたとのことです。「新ガイドラインでは、現状に即してアルゴリズム等は廃止して、薬物療法の適正使用を強調さていたということですが、報道されるときには、やや抗うつ剤などの副作用や弊害が誇張され過ぎている」、とのご印象とのことでした。私も同感で、もちろん、薬物の使用は慎重にしなければいけないのですが、うつ病の症状で苦しいときに、抗うつ剤を使用しないというのは、現状のうつ病治療を選択する上で、メリット・ディメリットを考えれば、望ましくないと思われます。うつ病が長引き、慢性化することは、避けないといけません。そのためには、うつ病の診断、重度などを判定して、それに適した初期の治療がとても重要です。

当たり前のことですが、ガイドラインの使用の際には、まずは、うつ病かどうか?合併症の有無、うつが続く時には、維持させているものは何か?などの診断や治療計画が大事と言うことになるのでしょう。そのためにも、フォーラムで新たに、うつ病の概念・診断、治療計画、適正な薬物療法について話し合えたことはとても有意義でした。

新型(現代型)うつ病は取り上げられていない

今回のGLの特徴の一つは、近年話題になっている「新型(現代型)うつ病」について取り上げていない点です。このGLでは精神疾患の分類と手引き第4版(DSM-IV)を採用していますが、厳密な臨床研究対象とされる大うつ病を「うつ病」と位置付けており、若年者における軽症抑うつ状態の側面をマスコミが大々的に取り上げた「新型うつ病」については、精神医学的に深く考察されたものではなく、治療のエビデンスもないとして、あえて取り上げていないとしました。

マスコミでよく報道される最近のうつ病は、新型うつ、現代型うつ、非定型うつなど、いろんな病名がつけられていますが、とてもあいまいなもので、誤解を招いている面もあります。
これまで、うつ病(特にメランコリー親和型うつ病)は、、「きまじめ、熱心、几帳面、責任感が強い性格。一般にうつ病は重く、休養と治療が必要で、しっかり治療すれば、良くなることが多い(うつ病は心の風邪などと)」と専門家からも言われてきました。
しかし、最近、「若年者のうつ病・抑うつ状態は、こういった従来の典型的なうつ病のイメージ(メランコリー親和型うつ病)に合わない特徴が認められることがあるため、「新型うつ病」や「非定型うつ病」と呼ばれ、どうかすると、現実の苦難から逃げたがる怠け者扱いされ、就労やいったん休業した場合に復職の壁が高く設定されるようなことも耳にします(つまり、復職の条件が難しくなる)」。
しかしこれらの病状は、今に始まったことではなく、思い起こしてみれば、以前からありました。例えば、1975年に発表された「笠原木村分類」にも記載されています。
大事なことは、社会環境が、1970年代と現代とでは、大きく変化しており、現代社会が若者に求める要求やハードルが高くなっていることも関係しているかも知れません。
特にリーマンショック以降、若者を取り巻く最近の社会環境、時に就労についての悩みは、かなり深刻化しているように思います。つまり、これまで、30歳代が、つらい年代と言われてきましたが、より若年層にまで広がりつつある傾向があるように感じます。

若い人の閉塞感は年々深刻になっていることを実感させられる衝撃的な資料が、最近、報告されました。
本年5月1日に内閣府は、「自殺対策に対する意識調査」の結果を発表しました。ここでは20代の若者のうち「本気で自殺を考えたことがある」人が28.4%に上り、全世代で最多であったと報告されており、これはかなり衝撃的な結果です。
「あえて、新型(現代型)うつ病は、うつ病の範疇では病名としては取り上げない」、とはなりましたが、この「若年者のうつ」などのこころの問題は、社会でも深刻化しています。ですから、これからも診療現場では、新ガイドラインも参考しながら、様々なエビデンスを組み合わせて、工夫、これからも、考えていかなくてはならないでしょう。

日本うつ病学会治療ガイドライン・大うつ病性障害 2012 Ver.1(PDF)

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市からアルコール依存症専門医療機関、日本精神神経学会から専門医のための研修施設などに指定されている。